担任交代から1ヶ月。「算数が好きになった」と3年生の子どもから伝えられるまで。
育休中は週2回の投稿。復帰後は週1回の投稿。
担任外から3年生の担任へと役割が変わったことで自分で決めたルールを守れず、久しぶりの投稿です。
少しハードな期間でした。
担任交代による引き継ぎ業務もままならず、担任と担任外の業務に取り組んでいました。そして、業務が増えることよりも目の前にいる子どもたちの姿を見て「なぜこうなってしまったのか…」と考えてしまうことが一番心を重くしていました。
ただ、私ができることを少しずつ取り組んでいくことで、子どもたちの様子に変化が見られる様になりました。
その一つが「算数が好きになったんだ。」という言葉です。
この言葉は、授業中ある男の子が急に発したものでした。そして、その言葉につられてなのか「私も好きになったよ。」「面白いからね。」と周囲の子どもたちも話してくれました。
子どもたちに厳しく接することもあるので、子どもとの関係性に不安を感じていないわけではありません。だからこそその言葉に心が温かくなりました。
今回の投稿は、この1ヶ月で印象に残ったいくつかの授業を点として、その点と点を結ぶことで「算数が好き」という言葉を捉え直そうというものです。
…と書き始めたのが10月の中旬の頃でした。
12月になるまで学級、学年、学校のことに集中していたため、なかなかnoteの投稿にまで辿り着きませんでした。
改めて10月に書いたものを読み直し、再構成して投稿しようと思います。
1.突然の担任交代
校長室に呼ばれ「明日から担任を頼む。」と言われ、急遽3年生の担任になったのは9月の中旬。
多くのことは書けませんが「このクラスの担任はできないけれど、担任外の仕事ならできる。」ということで、担任外だった私との配置転換となりました。
改めて文章にすると、簡単には納得できないような出来事です。
校長の私への配慮、気遣いの言葉によって受け止めることができました。
2.クラスは案の定
担任交代前から、休みがちだった担任の代わりに補欠に入っていたのでクラスの雰囲気はある程度は分かっていました。しかし、やはり担任として1日、2日…と過ごしていくことで、クラスにはなかなか難しい状況が見えてきました。
授業は「やらされるもの」:「これはノートに書くんですか?」「これはやった方がいいんですか?」
休み時間は「自由」:ルールは「知りませんでした。」授業開始には間に合わず「トイレに行ってました。(遊んでいたけれど)」
トラブルは「おおごとに」:1対1のトラブルが「男子グループ対女子グループ」トラブルに。ただの勘違いが罵り合いへ。
どうすれば子どもたちが「これは良くないな。」と思ってくれるのか。
どうすれば私のメッセージが彼らに伝わるのか。
結局、私が行き着くところは「授業でなんとかする」でした。
授業で「やりたい」を引き出し、受け止める。
授業の時間が自分の成長につながるから、授業開始の時間を守る。
授業を通してクラスの仲間のよさに気付く。
先にあげたクラスの状況に対する解決策が上の3つです。
特別な実践はありません。当たり前のことを一生懸命、子どもと実践していくだけです。そして、「何のためにやるのか」「ルールはだれのためにあるのか」と子どもたちに伝え続けています。(もちろん、現在進行形です。)
3.算数の授業が少しずつ楽しくなる
3.1 『円と球』の単元で、子どもたちの授業への向き合い方が変わり始める
『円と球』の単元の実践は、以前、noteに投稿させてもらいました。
そちらも併せて読んでいただけると嬉しいです。
既に配られていた時間割には、持ち物の欄に「コンパス」という言葉があったため単元が始まる前からコンパスを持ってる子が多くいました。
「いつコンパス使うの?」
「まだだよ。」
「えー。まだなの。」
というやりとりを繰り返していました。
そこで、円の定義を1時間目に学習し、2時間目は子どもたちにコンパスをたくさん使わせてあげることにしました。
直径等の定義を確認し、
「じゃあ、残り時間はコンパスを使って円を描いてみようか!」
と投げかけたとき、子どもたちは一瞬固まりました。
少しの間をおいて「やった!」と小さく嬉しそうな声が聞こえてきました。
コンパスの使い方が分からなくても、なんとかして円を描こうとします。
様子を見て、コンパスの使い方を教え、円を描いていきます。
コンパスの扱いに慣れてきた子たちにはこうしたプリント系の問題が多く出回っているので、それを参考にして模様作りに挑戦させていきます。
その学習のつながりの中に先ほどの実践があります。
単元の始めの子どもたちの中にある「やりたい」は学習ではなく、「コンパスを使って遊ぶこと」もあります。時数や進度も大切ですが、こちらの「やらせたい」をぐっとこらえて、子どもの「やりたい」に寄り添おうとした単元でした。
そうすると、子どもたちが授業への向き合い方が少しずつ変わってきます。
「先生ー。コンパス今日も使えるの?」
「使いたいのかい?」
「うん。」
「使う予定だよ。」
「やったね。」
それを聞いていた子どもたちが
「今日はコンパス持ってきたんだ。」
「俺も。」
というようにです。
実は、単元が始まってしばらくするまで、学級の半数しかコンパスを持ってきていなかったのです。
3.2 『かけ算とわり算の図』の単元での「できた!」が「やりたい!」を引き出す
「円と球」の単元の次は「かけ算と割り算の図」です。
さらっと扱ってしまう単元かもしれませんが、こういう単元で子どもなりの表現を引き出すことを意識して取り組んでいました。
ポイントとなるのは1時間目と3時間目です。
1時間目は子どもたちに図を提示し、どんな問題になるかを考えてもらいました。
問題文を板書した時、「問題文」という言葉を勘違いして「1+1」という発言をした子がいました。「それは式じゃない?」と他の子が反応したので、「じゃあ1+1の式になる問題文をみんなで考えてみようか。」と促します。
即興で考えてくれた子の問題文を板書し、「これ本当に1+1?」と問い返します。この内容なら、「だってもらったんだから1+1だよ。」「「あわせて」という意味だよ。」などと反応が出てきます。その説明に合わせて図を描いて「こういうこと?」と聞きながら確かめます。
そして、本題の図を提示すると少し考えながら「わかった!」という子どもたち。
同時に「先生、本当に問題は何でもいいの?」という確認も増えます。
「図と合っていればいいよ。」と返すと、
「じゃあ何にしよっかな。」と笑顔な子どもたちが出てきました。
そうした会話に付き合っていると、
「先生、問題文考えたから絵で描いてもいい?」という声が出てきます。
「自分でできそうなことを考えてやろうと思うところが素敵だね。」と任せます。
一人の子に問題文を発表してもらうと、
「1台20円のSwitch(ゲーム機)を3台もいいですか?」
「1こ20円のアメを3こでもいいですか?」
と、自分の考えた問題文でもいいかの確認の声が飛んできます。
この「教師に確認をする」という行動。
私たち教員はこの行動を「自分で判断できるようになりなさい」と、ある種否定的に返す場合があります。
もちろん、確認しなくていいことを一つひとつ確認する必要はありませんので、その必要はないよと指導する必要があります。
ただ、この授業における<確認>はそれらとは違います。
自分「の」やったことは、あなたはどう思いますか?
(あなたの問い掛けに対する私の行動について、どう思い(評価し)ますか?)
自分「が」やったことは、あなたはどう思いますか?
(自分で取り組んでみたことに対して、あなたはどう思い(評価し)ますか?)
きっとこの<確認>の背景にある子どもの思いは、この2点にあると思います。
私という存在を無意識的に推し量っていたのだろうと今振り返ると感じます。
1時間目の題材は、本来、自分で問題文を考えるのではく、「次の図は教科書の問題文のどちらでしょう」というものでした。そこに、子どもが働きかけられるように一工夫を加えたことが、子どもたちのこのような姿を引き出したのだと感じています。
3時間目は、1時間目とは打って変わって問題に働きかけて…とはなかなか行きません。数直線の指導があるからです。この数直線の書き方は高学年になっても使う大切な指導事項です。
そこで、問題を数直線で表すためのポイントを明確にしました。
問題文の中にある「1」見付け、下の数直線の左側に書く。
1についている単位「本」を下の数直線の( )に(本)と書く。
「1本」に対応する「60」を上の数直線に書く。
60に付いている単位「円」を上の数直線の( )に(円)と書く。
4「本」に着目して、下の数直線に4を書く。
何「円」に着目して、上の数直線に⬜︎を書く。
この手順を全体で確認しました。
大切なことは1をしっかりと見つけることだよ。
1に付いている単位から始まるんだよ。
こう投げかけて問題文から数直線を書かせていきます。
すると、普段、問題文を読み解けない子も数直線に表せるようになります。
「お、かけた!」
「先生、できたよ!」
そんな声が上がってくるので、
「難しい数直線がかけるなんてすごいね!」
と、褒めて回ることができます。
この指導は問題文のを読むための読解力を上げる指導ではありません。
(それを上げるのであれば、絵を描かせる方が効果的です。)
手順通りに数直線という形式に当てはめることで、文章ではつかめなかった構造を見えるようにしているだけです。
それでも、文章題が苦手な子にもある種の武器を手渡すことができます。
「先生、もう問題ないの?」
「時間があるからもう一問やろうよ!」
そんな声があがり始めます。
子どもたちの「やりたい」の根源には、「できる」という経験が必要不可欠です。
何もできない子が「やりたい」と思うはずがありません。
脳研究者・池谷裕二は以下のように言います。
<確認>の行動を通して、どうやらいろいろ認めてくれそうな私の話を聞いてみようと思った子どもたち。その私の指導通りに半信半疑でやってみたらよく分からないけれどできた。
もうちょっとやってみたい。かも。
子どもたちの気持ちはそう読み解けます。
子どもたちの中で、話を聞いてみようと思える存在に私自身がなったこと。
そして、そこに子どもの「やりたい」を引き出すきっかけをつかめた時間だったと感じます。
3.3 『かけ算の筆算』でのノート指導で「算数が好きになった」
これまでの単元を通して、少しずつ子どもたちが学習に前向きになってきました。
もちろん、たくさんの発言が生まれ、学級全体で学びを創り出すような感覚ではまだありません。
その中で、ノートに自分の考えを表現し始めた子が少し現れてきました。
今までの子どもたちのノートを見てみると次のような現状でした。
教科書に書いてあることを写す
黒板に書いてあることを写す
個人的な意見になりますが、この2点の指導に意味はないと思っています。
それなら教科書を読めばいいですし、板書をそのまま書くなら写真を撮る方がより効率的です。
何のためにノートを書くのか。
この目的意識が子どもたちになければ、書くことに抵抗感のある子どもたちにはただの苦行でしかありません。「授業はやらされるもの」という感覚は、こうした指導からも生まれると思っています。
そこで、授業の後にノートを集め、次の算数の授業のはじめに「私の趣味の時間」として紹介するようにしました。
後の成績処理にも活用できるように、ノートにコメントを書いたものを写真に撮り、次の時間に映してどこが良かったかを話すだけの簡単なやり方です。
どこを価値として見いだすかは様々です。
自分で考えたこと、思ったこと、感じたことを書いている。
授業の中盤、終盤で分かったことや疑問をノートにまとめている。
友達の意見を聞いて考えたことが書いてある。
一枚一枚ノートをテレビに映しつつ、子どもたちに話しています。
そして、丁寧に自分の思ったことを伝えていきます。
それから、算数の授業に入ると、自然と子どもたちは集中し、ちょっとだけやる気に溢れます。そして、私が伝えたことを少しだけ取り組んでみようとしていくのです。それに対して、「さっき伝えたことを実際にやってくれてありがとう。こういうところが成長につながるね。」などと声を掛けながら授業を進めていくのです。
すると、授業が始まる前に子どもたちから、
「先生、今日は趣味の時間あるの?」
「昨日の放課後は趣味の時間を取れたの?」
などという質問を投げかけられます。
こうして、少しずつ「趣味の時間」を楽しみにしてくれている子どもたちの輪が広がっていったのです。
4.「算数が好き」の背景:そんな簡単な話ではない
このようにして、冒頭の「算数が好きになった」という場面が生まれました。
とても良い話のようにも感じられますが、改めて振り返ってみると、危うい側面も少なからず存在していると感じています。
1つは、「強い評価」を「短期間」で集中しているということです。
担任交代後すぐに新しい担任のやり方に適応できる子ばかりではありません。緩やかに新しい担任に慣れていく必要がある子もクラスの中には必ずいます。その部分への配慮を抜きにして語れるものではありません。
冒頭でも「厳しく接する」という言葉を使いましたが、極力「厳しい指導」は避ける様にしていました。いじめにつながりそうなこと、人を傷つけることのみに集中して指導をしていました。
それ以外は、自分の思いを伝え続け、褒め続けることに徹していました。
バランスをとりながらの指導も忍耐力が必要でした。
それでも、周囲のクラスの子どもからは「先生、また怒ってたね。」と言われるのです。難しい話です。
もう1つは、算数の本質的な「好き」かどうかです。
「算数のおもしろさ、良さを知って算数が好きになった」のか「先生に褒められる教科だから好きになった」のか。
今回の私の点と点の結び方は後者です。
しかし、それでもいいと思っています。今回出会った子どもたちに対しては、まずはポジティブな感情を持ってもらうことが先決でした。
心理学者の秋田喜代美は「興味」を、個人的に関心があることの「個人的興味」、そのときの内容や雰囲気が面白かった等の「状況的興味」に分け、以下のように述べています。
その視点で私と子どもたちの学びを見つめ直すと、コンパスの作図の授業を除いて、「状況的興味」を引き出す授業が中心です。できる。分かった。おもしろい。本質とのつながりが遠くとも、まずは状況的興味を引き出し続けることが算数の面白さを感じるきっかけにつながるはずです。
12月になり、少しずつ子どもたちと私たちの関係も落ち着いてきました。
きっと子どもたちも全ての算数が楽しかったわけではないと思います。「算数が好きな子」「考えることが好きな子」を増やすためには、まだまだ授業の腕を磨きたいと純粋に思います。
担任交代して1ヶ月でこれだけ様々なことがあるのですから、その後もたくさんの出来事がありました。そうは言っても、子どもたちと楽しく笑顔で過ごせるようになって冬休みに入ることができたことに一安心です。
ずっと下書きに留まっていたこの記事。
ようやく公開まで漕ぎ着けることができました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。