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ちょっとした工夫で楽しい「算数の体験」へ:5年生で「考えたい!」を引き出す「合同」単元の授業

前回の続き、「5年生『合同な図形』の単元デザイン②」です。

 前回は「合同な図形」の小単元についての紹介でしたので、今回は「三角形や四角形の角」の小単元を紹介します。


帰納的・演繹的に考えることの大切さ:「考えなさい」では子どもは考えることはできない

 この単元で大切になることは「三角形や四角形(多角形)の内角の和について知る。」ことです。つまり、

  • 三角形の内角の和は180°である

  • 四角形の内角の和は360°である

  • 多角形(n角形)の内角の和は180×(n-2)である。

とざっくりと整理することができます。

 加えて、この小単元は内角の和の規則性を発見する「きまり発見」の単元だといえます。この「きまり発見」の授業では、この場面に限らず「三角形の内角の和のきまりを見つけましょう。」などと、あたかもきまりがすでにある前提で教師が投げかける授業が見受けられます。

 果たしてその展開に「発見する喜び」はあるのでしょうか。「考えなさい」と言われても、「なぜ考えるのか?」が分かりませんよね。だからこそ、教師のちょっとした工夫で心を動かし、「考えたい!」という思いを引き出していく必要があるのです。
 この小単元では、この思いを原動力に内角の和の規則性を子どもたち自身の手で発見できるように授業をデザインすることがねらいです。

 教室の仲間と学んでいる時にふと規則性に気付き、教室が盛り上がる。そんな素敵な「算数の体験」を子どもたちとできれば、授業も楽しいですよね。


 そのために押さえるのは「帰納」「演繹」です。

 この2つの言葉は学習指導要領にもよく出てくる言葉です。算数科の目標に係る「見通しをもつ」部分の解説を引用します。

その際、幾つかの事例から一般的な法則を帰納したり、既知の似た事柄から新しいことを類推したりする。また、ある程度見通しが立つと、そのことが正しいかどうかの判断が必要となり、このときは既知の事柄から演繹的に考えたりする。

 平成29年度告示 小学校学習指導要領解説 算数編 p36 (太字は筆者)

 つまり、以下の部分がこの単元のポイントだと言えます。

  • 三角形の内角の和を幾つかの事例で見出すこと(帰納)

  • 見出した内角の和をもとに、多角形の内角の和を考えること(演繹)

 以上が「三角形と四角形の角」についてです。それでは実際の授業を振り返ってみます。


1時間目:「どんな三角形でも180°?」 帰納的に考える姿を引き出す工夫

1時間目

 まずは「内角」の用語を伝えます。「内閣」と軽く返してくる子どもたちと楽しみながらやりとりをします。

「三角形にできる内側の角を内角と言うのだけど、この3つ(色分けして示す)の角の和は何度になりますか?」

 このように問いました。

「180°!」「360°!」先行知識がある子の発言があったとしても、ここは予想なので全く問題ありません。
「簡単に分かる三角形をみんなは知ってるよ。」と返します。すると、「なんだろう!?」「そんな角度分かる三角形ってある?」という反応になりますが、「三角定規」の言葉を出すだけで「あぁ!角度分かる!」と思い出します。

 そこで、三角定規の直角三角形2つの内角の和を確認します。

  • 45+45+90=180

  • 30+60+90=180

 既に知っている知識で「どうやら180°になりそうだ。」という見通しが立ってきます。

 そこで、「自分が描いた三角形でも180度になるのかな?」と問います。

「三角定規がなるなら180°になるはずじゃない?」「いや、細長い三角形にしたら180°じゃなさそう。」など子どもたち求める三角形を委ねることで、自然と確かめたくなってきます。

「どんな三角形でも180°になるのかな?」と課題(めあて)を設定し、各自解決に取り組みました。

 こうなると、子ども1人1人がはっきりしたい三角形のイメージがあるわけですから、思い思いの三角形を(複数)描いて確かめ始めます。「やっぱり180°だ!」「179°は誤差ってことかな?」などと、自然と三角形の内角の和は180°だと、だんだん確信をもつ子が増えてきました。

 その後の交流で確認すると、多くの子は180°だと言います。そこで「大体の子が180°だから、180°だってことでいいかな?」と問います。ただ、子どもたちは「まぁ…いいかなぁ…?」とすっきりしない様子。「一瞬で確かめる方法があるといいね。」と話しつつ、直線に3つの内角を合わせる方法で確かめ、「180°になるんだね!」と確かめました。ここで子どもたちも納得の様子。


2時間目:「どんな四角形でも360°」 演繹的に考える姿を引き出す工夫

2時間目

 次の時間です。
 前の時間の子どもたちが書いた振り返り(感想)を読むと、

  • 次は四角形が何度か調べたいです。

  • きって貼り付けることで180°ってすぐ分かることがすごい。

  • 四角形はきっと360°になるはず!

などと、書く子がいました。

 その流れの中で、「四角形の内角の和は何度でしょう。」という問題に取り組みました。

 何人かの子どもたちはもう展開を分かっています。「360°だよ。正方形は90×4=360だよ!」「なら長方形もそうじゃない!」と自然と、今まで習ったことを引き出し、内角の和の見通しを立てています。
 ここで「そうだね。」とは言わずに、「本当に?」「正方形や長方形が特別なだけじゃないのかな?」などとゆさぶり、子どもたちの思いを引き出していきます。
 そして、「では、この四角形ではどうかな?」と板書にある四角形を提示します。その四角形を見るとやはり「360°…かなぁ?」と少し立ち止まって考えるものです。そこで「どんな四角形でも360°と言えるのかな?」と課題(めあて)を設定し、解決に臨みました。

 子どもたちは「分度器で調べようかな!」「前回みたいに切って貼って一周すれば360°だよ!」などと、各々の方法を考え始めます。本来なら「三角形の内角の和は180°である」という知識を使えば分かるものですが、そうではない解法だとしても認めています。最終的にそこに辿り着けばいいのです。

 全体の場では「分度器で確かめた子→切って貼った子」と交流を進めました。「どうやらこの四角形でも360°になりそうだね。」と話すと、ある子どもが「そうそう。ただ、「どんな」とは言い切れないんだよなぁ…。」とつぶやきます。
 そこで、四角形を対角線で分け、三角形を2つ作った子の考えを取り上げました。すると「うわ!これなら「どんな四角形でも360°」じゃない?四角形は三角形2つになるじゃん!」と嬉しい反応が返ってきました。「どんな三角形の内角の和は180°だから…。」と、その子のその言葉の意味を全体で共有します。まさに、このように思考していく姿を見ると子どもたちは演繹的に思考をしていると言えそうです。

 そして、さらに「でも、四角形って三角形4つにもできるよ。」とゆさぶりをかけました。今回授業した子どもたちは、こうした四角形の分け方に着目した子がいなかった故の手立てです。「これだと180×4で720だよ。360°ではないかもしれないね。」と話すと、「いや、待って!余分な角があるよ!」と話し始めるので、近くの人と相談して確かめます。こうして「余分な数を取り除いて360°」と言うことがはっきりしました。

3時間目:「多角形の内角の和にきまりがある!」を引き出す

3時間目

 3時間目は五角形の内角の和を扱い、多角形の内角の和へ発展させていきました。1、2時間目の様子から3時間目に五角形の内角の和、4時間目に多角形の内角の和としたかったのですが、進度の都合上、1時間でまとめました。

 導入は1、2時間目と同様です。ただ、ここまで来ると子どもたちは「五角形は今まで習った図形の内角の和で考えれば、どんな五角形でも内角の和が分かる。」と理解しています。そのため、「分ける方法使える?(ピザ法)」「いや、きっと無理でしょ。三角形使ったほうが絶対早い。」などと、思考もスマートになっています。

 五角形単体でシンプルに考える場合は主に2つの解決方法が考えられます。

  • 四角形+三角形=540°

  • 三角形×3=540°

子どもたちはある程度の満足感をもってできたことに満足です。

 そして、「今までの学習を整理しようか。」と投げかけます。「三角形の内角の和が180°」「四角形の内角の和が360°」と話した途端、「あ、これ六角形は720°だ!」と声が上がりました。周りの子も一瞬考えた後、「180°ずつ増えている!」「規則性がある!」と口々に言い始めました。

 ここで、子どもたちから「なぜ180°ずつ増えるのか?」の問いが生まれることを期待していたのですが、変化に着目する子が多く、その根拠にまではいきませんでした。

 そのため、「180°ずつ増える仕組みが図に見えるかい?」と図形との関係性を見せました。そこでようやく「三角形が1つずつ増えているから180°ずつ増えているんだ!」と原理ついての発言が引き出されました。



 以上が小単元「三角形と四角形の角」の単元デザインでした。子どもたちが発見する楽しみを味わう体験になればと思った実践でした。

 ここでの工夫を簡単にまとめると以下のようになります。

・問題をすぐ解かずに今までの知識で分かるものはないか一緒に考える。
・ある程度、子どもに委ねることで帰納的に内角の和を導く。
・規則性に着目しにくい場合は、内容を整理することで発見しやすくなる。

以上となります。
ありがとうございました。

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