子どもの思考の文脈に指導事項を編み込む:数と計算「20×3」の場面の質問から【算数】
先生、ちょっとモヤモヤするので聞いてもらっていいですか?
3年生を担任している採用数年の若い先生が、相談に来ました。
算数の授業で20×3の学習です。
(問題文から20×3を立式し、どのように計算するのかを考える場面)
子どもたちは「できる!」と一生懸命学習に取り組んだそうです。
ただ、ほとんどの子が、
「0を消して2×3=6の6に0をつけるんだよ!」
と説明するのです。
教科書では「10のまとまりが(2×3)個分」とあるので、それを扱おうとしても、そう考えた子どもがいませんでした。
待っても出てこないので私が「こういう考え方もあるんだよ。」と説明すると、子どもたちが見せていた意欲的な姿が急に見られなくなり、子どもたちが引いていってしまいました。
どうしたら良かったのでしょうか?
このような話でした。
私自身、似たような経験をよくしました。
「教科書にある内容は必ず教えなくてはいけない…!」と考えるあまり、一生懸命話している子どもたちのこと第一にできずに説明してしまい、子どもたちが急に静かになっていく。
そして、気付いた時には教師だけが話している状況から脱出できなくなるのです。
今回の相談で、若い先生がそうした子どもたちの雰囲気を感じて、その原因を探ろうとしている姿が素敵だなと思いました。
この相談で私が伝えたことは、以下の3つです。
子どもが「考えたいこと」と教師が「教えたいこと」のずれが原因
子どもの意欲的な姿が急に見られなくなった原因は、
子どもが「考えたいこと」と教師が「教えたいこと」の「ずれ」にあります。
子どもたちは、「0を消して2×3=6の6に0をつける」という、「数の操作による解決方法」について考え、説明したいと思っているはずです。
加えて、その操作が「なぜその操作で積を求めることができるか?」という部分まで考えようとは思っていません。
ただ、教科書や教師は「なぜその操作で積を求めることができるか?」を中心に扱うことを望んでいます。
そこに、お互いの「やりたいこと」にずれがあるのです。
子どもたちは「数の操作を説明したい!」と思っているのに、急に「10のまとまりが…」と教師が言い始めたら、「この先生何を言い始めたんだろう?(話の流れ読んでる?)」と、思いますよね。
若い先生のクラスは先生のことを好意的に受け止めています。
だからこそ、
「その先生が話したいことの理解」に脳のパワーを注ぎ、
結果として意欲的な姿勢が見られなくなっていったのではないでしょうか。
「0を消して2×3=6の6に0をつけるんだよ!」だけでも大丈夫
しかし、リアルタイムで進んでいく授業の中で、
子どもが考えが事前に計画したものと違った場合はドキドキしますよね。
その気持ちはとてもよく分かります。
ただ、経験を積むにつれ、
私はドキドキの中に少しだけワクワクが生まれてくるようになりました。
子どもの考えと教師の指導したいことが全く別物だということは、算数の場合あまり起こり得ないと体感的に気付いたからです。
基本的に両者はグラデーションのようにゆるやかにつながっています。
少し解説しますと、
今回の「0を消して2×3=6の6に0をつける」という思考と「10のまとまり」のつながりは「図と式」にあります。
「0を消して2×3=6の6に0をつける」の考え方は基本このような形です。
20×3=60
↓ ↑
2×3=6【ココ!】
要するに「10分の1したから積を10倍する」というわけです。
(その関係に気付ける子はそういません。)
一方で、20×3=60の式を図に表した時に2つの方法があります。
①「1」を20個書き、それを3つ書く方法(20×3=6)
②「10」を2個書き、それを3つ書く方法(2×3=6)【ココ!】
①を描くのは面倒ですよね。
きっと中々そうやって図を描く子はいないと思います。
(いたら②と比較すると良いでしょう。)
教師が指導したい「10のまとまり」は②です。
つまり、
今回の授業では、
2×3=6の式と②の図が結び付けば、
「10のまとまり」が自然と見えてくるわけです。
これで、子どもの「考えたいこと」と教師の「教えたいこと」が別々ではなくてつながって見えると思います。
教師が「説明する」から「考えたくなる一言」を
では、「0を消して2×3=6の6に0をつける」という考えしかない場合に、教師が教えたいこととどう結びつけていくのか。
まず、授業のどこかのタイミングで「20×3の図」を子どもたちと共有します。
例えば、以下のように投げかけていくことが必要です。
問題を提示した段階で「20×3という式になるとみんな言っているけれど、図で本当か説明できる?」と問い返し、黒板に図を位置付ける。
子どもたちが「0をとって…」と話している時に、「なるほど…確かに60になりそうだ。積が本当に60になるかたし算で確認できる?」と10+10=20・20+20+20と図に位置付ける。
このようにして、黒板に図が共有されていれば準備完了です。
「0を消して2×3=6の6に0をつける」と、子どもたちがある程度納得するまで話した後、10のまとまりが描かれた図を見つめながら、
「あれ?この図の中にも2×3が見える。」と一言。
この一言に「確かに!」という子がいれば、大いに喜びましょう。
きっと潜在的に理解をしている子が式と図が結び付いたはずです。
そして、気付いた子にすぐ説明させるのでなく、
「みんなでわかるためのヒント」を聞いてみてください。
「20じゃなくて図に2がある!」
「10のかたまりが…」
などと話し始めたとしたら、もう大丈夫です。
全体で共有した時には、
「20の0をとって2にするのは「10のまとまりが2個」の2なんだね。」
と話すことで、教師が教えたい内容は網羅できるはずです。
(教師が話すのではなく、子どもの説明で確認できれば最高です。)
このように、教師が説明するのではなく、子どもが「考えたくなる一言」を意図的に投げかけることで、子どもの思考を途切れないようにするのです。
そうすることで、
途切れず連続した思考(=子どもの思考の文脈)の中に「20の0をとって2にするのは「10のまとまりが2個」の2なんだね。」という教師が教えたいこと(=指導事項)がしっかりと位置付くのです。
子どもの思考の文脈の中に、指導事項を編み込み、解決する楽しさと深い理解が生まれることを期待しています。
長くなりました。
ありがとうございました。
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