教育実習生へ「授業の見方」/授業を観ているあなたにしか話せないこと
大学によって違うとは思いますが、そろそろ始まる教育実習。
自分が教育実習生だったときを振り返ると、今でも実習先の子どもたちとの出来事を思い出せます。教育実習生の皆さんには子どもたちとの思い出をたくさんつくって欲しいです。
今年度は実習生に対して「授業の見方」というテーマで話をすることになりました。
今日は話す内容の整理するために書こうと思います。
①「何のために」授業を見るの?
「見ろ」って言われたから。
(自分が授業をするために)どんな風に進めるのか知りたいから。
こんな風に答えが返ってくるとは思いませんが、実習生の思いはそれぞれです。本気で教師を目指して実習に来ている人もいれば、一般企業の就職を目指し卒業のために実習に来ている人もいます。
一人一人の実習生の思いを知らずに「先生になるんだから授業を真剣に見て学ぶことは当たり前」とは言えません。
もちろん、「あなたは教員を目指していますか?」と聞いたとしても、「教員になる気はありません」なんてなかなか言えないので、あらかじめ「先生にならない人もいるよね」と伝えます。
その上で、教員を目指す人もそうでない人にも「授業を見る」という行為から学んで欲しいことがあります。
それは、「質問する力をつける」ということです。
授業は教師と子どもが話しているだけの様に見えます。しかし、何気なく見えるやり取りにもそこに至るまでの先生と子どもたちが「積み上げてきた背景(=物語)」が存在します。目の前で起きている授業のやりとりは、その物語なしには成立しないことが多いのです。だからこそ、そこにある物語まで捉えることができると、目の前の先生の指導がよく理解できるようになるのです。
要するに「何気ない先生の一言に、深い意味があった。」みたいなものです。
指導者がもつこの「物語」が、重要な学びなのです。
もちろん多くの先生方は、自分の経験をベースにしてそれをつかみ、その先生が何を考え(価値観)、どのように指導しているか(技術)を学びとっています。
そう考えると、経験のない実習生が初めて出会う先生の授業を観て学ぶってとても難しい。
もしかするとこうした学びを実習生には求めていなくて、純粋に「授業ってこんな雰囲気なんだ。」「子どもが一生懸命勉強してる」と思うだけでもいいのかもしれません。
ただ、せっかくの実習です。たくさん学んで欲しい。
だから、難しいことは授業者の先生に教えてもらいましょう。
何気ないあの子への一言に、どんな意味があるのですか?
あの場面で、あの考えをしていた子を取り上げたのはどうしてですか?
「〜〜。」と言って、子どもたちがあの動きができるのはどうしてですか?
こうした質問を糸口に授業を見せてくれる先生に、その先生が語る物語を聞いてみるのです。きっと、表面上には見えていなかった物語が聞き出せるはずです。
その先生が語る物語には必ず価値観が含まれます。
あの子は〜〜だから、あの場で〜〜といってあげたかった。そうすると〜〜できる。
あそこであの子の考えが取り上げられると、クラスに〜〜な良い影響がある。
子どもたちと普段から〜〜なことを大切にしていた。
こうしたその先生の価値観をベースにして指導は生まれています。
この価値観をベースにしない指導は、子どもにはうまく届きません。
「お客が絶対に〇〇の商品を買う口説き文句の定型文」がないのと同じことです。
その人が何を考え、どんな思いで取り組んでいるか。
そこから学ぶことは、学校現場に限らず、どの一般企業でもあります。
問題なのは、こちら側から聞かないと先輩方の多くは物語をあまり多く語らないことです。それは、聞いてもらう場合でないと話しにくい内容だからです。「話の長い人」だったり「余計なことを話す人」と思われることは避けたいレッテルだからです。
ある会社の先輩の仕事にまつわる物語から自分の価値観を磨く。
そのための「質問する力」です。
②その「見た」授業について話せと言われたら…?
仮に授業を観たとします。
授業後に授業者の先生の所へ向かい、その先生へどんなことを伝えますか?
すごかったです!
子どもが生き生きしていました!
なら、授業の会話は「ありがとう!」で終わります。
なぜなら授業を観てなくても言えるからです。(本当か嘘かは別として)
質問でも感想でも大切にしてほしいことは
授業が行われた教室にいた「あなた」にしか言えないことは何か?
ということです。
あの子のあの様子
先生のあの言葉
板書のあの言葉
あの子が使っていた教材
あの子が書いたノートの中身
その場でしか分からない具体的な出来事から話し始めるのです。
もし、その話や質問が的外れだとしても、教員はきっと受け止め教えてくれるはずです。
③授業の「見方」は2つの「視点」
あの子のあの様子
先生のあの言葉
板書のあの言葉
あの子が使っていた教材
あの子が書いたノートの中身
「その場でしか分からない具体的な出来事」は、2つの「視点」から見えます。
「子どもの学び」と「教師の関わり」です。
「子どもの学び」のポイント
だれが?
どのように学んでいたか?
(+α)どんな変化があったか?
例えば、「Aさん(だれが)は〜〜のように考えていた(どのように)ところがすごいと思いました。あんな風に学べるようにどのように指導しているのですか?」のようにです。
「教師の関わり」のポイント
どんなときに?
どんな言葉を言っていたか?
(+α)だれに
この視点で授業を観て、「すごい!」「なるほど!」「あれ?」と思った部分について質問を考えていきます。
「子どもの学び」だと、例えば、「Aさん(だれが)は〜〜のように考えていた(どのように)ところがすごいと思いました。あんな風に学べるようにどのように指導しているのですか?」のようにです。
そして、この視点で授業を観ていくと、その授業が立体的に見えてきます。授業が立体的に見えると2つの視点が混ざっていきます。
「Bさん(子:だれが)には、先生が〜〜〜〜と関わっていました(教:どんな言葉)が、よければその理由を教えてもらえますか?」
という様にです。
本来ならば「子ども」と「教師」のほかには「教材」があるのですが、まずこの2つの視点で授業を観てみると自ずと教材についても見えてくるようになってきます。
④授業を「見る」コツ …「記録」と「具体」
では、「2つの視点」で授業を観るコツです。
それは、「記録」と「具体」です。
「記録」はどんな会話かをメモです。
T:〜〜〜〜〜〜〜
C:〜〜〜〜〜〜
T:〜〜〜〜〜〜〜〜
C:〜〜〜〜
T:〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜★
C:〜〜〜〜〜〜
「いい!」「なるほど!」「あれ?」と思ったところに印をつけておくと振り返りやすくなります。
「具体」は「観察対象」を決めることです。
「その子」を観る(一人or複数)
「グループ」を観る
全体をぼんやり眺めるよりも、具体的な子どもに着目してみます。
すると、細かな動きややり取りから、授業全体が見えるようになります。
その人の物語に着目して、その人の価値観や指導技術を学んでいく。
このnoteで使っていた「物語」という言葉。
この「物語」のことを「ナラティブ(narrative)」と呼びます。
宇多川は『他者と働く』の中で、「「ナラティヴ(narrative)」とは物語、つまりその語りを生み出す「解釈の枠組み」」とし、相手のナラティヴに働きかけていくこと「ナラティヴ・アプローチ」と呼びます。
実習先の先生へ質問し、先生のナラティヴを理解し学んでいくことで、上の指摘にあるように「今までにはなかった関係性の構築」が生まれます。それは、「先生のナラティヴが知りたい」、「様々な先生に関心をもって、一生懸命学ぼうとする実習生に教えてあげようしよう」という関係性です。これは、「言われたから授業を見に来た実習生」「頼まれたから授業を見せる教員」との関係性とは明らかに違います。
この関係性を築くことができれば、多くのことを学べる実習になるはずです。
実習生も、実習先の先生も、子どもたちも素敵な時間が過ごせますように。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。