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《現代詩》蟬

私は夏が嫌いだ

湿気があって暑いうえに

大きくておぞましいGは隠れていて急に足早にその姿を現し

痒くて耳障りなKはいつの間にか存在していていやな爪痕を残す

そしてSは

集団でけたたましい音を鳴らしている

しかしSは夏の刹那でしか生きられない

まるで自ら短命であることを知っているかのように

これでもかと鳴き続けている

団地の階段に腹を見せながら蠢くSを

Oは可哀想だからと片手で包み込むように掴み

そっと空に向かって投げ飛ばした

もう飛ぶ気力はそれほどない

もう長くは生きられないのに

私はSの気持ちになってみる

もし自分の命があと僅かだと知っているならば

命懸けで鳴き続けるかもしれない

せいいっぱい生きようとするのかもしれない

それならば私は

夏の間だけSになってみようと思う

少しだけ夏が好きになれそうだ

そう気づいた今年の夏は格別である

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