老人と海
――「沖へ出すぎたんだ」
でも、やってみたんだ。
それは賞賛に値する。
何がいいか、悪いかなんて、やってみないとわからない。
損得勘定なんて、もってのほか。
目的としていたものに手が届かなかったとしても
やってみたことで、知れたこともある。
残ったモノが、肉を失った骨だけだったとしても
その骨が語ることもあるんだ。
笑われるのかと思った。
でも、笑われなかった。
――「鼻から尻尾まで18フィート」測っていた漁師が呼ばわった。
見ている人は、必ずいる。
その、事実を、そのままに、受け止める人は、必ずいる。
――老人が息をしていることはわかったが、老人の手を見たら泣けてきた。
そうっと小屋を出て、コーヒーでも持ってくるつもりで歩き出したが、
ずっと少年は泣いていた。
事実を、見ること。
言葉による虚飾を排し、ありのままに、見ること。
ヘミングウェイ『老人と海』(光文社 小川高義訳)