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飲食の多店舗展開でぶつかる「赤字店」と「資金調達」の壁

「あと5000万、足りないんです」

周囲にいるお客さんたちは笑顔で、WithGreenのサラダボウルを食べてくれている。そんな幸福な店内で、私は投資家に深々と頭を下げている。

「いくら武文くんの頼みでも、5000万円をはいどうぞ、とはねぇ」

創業のころから親しくしてもらっている間柄ながら、困惑が伝わってくる。サラダを食べる手を止め、フォークを握りしめたままでいる。

「そこを、なんとかなりませんか」

なりふりなんて、構っていられない。

まさか、すべての銀行で融資が断られ、WithGreenが破綻の危機に直面するなんてーー。

……ここで、私は目を覚まします。夢だと知って、胸をなで下ろしました。

こんな夢を見てしまうほど、ぐっすりは眠れない時期がありました。神楽坂で1号店を軌道に乗せ、WithGreenの多店舗展開を進めていたとき。2017〜2018年ごろです。創業する前から、WithGreenとして国内に50店舗を出すと決めていたので、2店舗め以降の直営店を増やしていくタイミングでした。

出店する場所は1年以上前に契約で決めていて、開店までの期限は動かせない。なのに、相当なお金が足りないというわけです。

1年前に出店場所を決めてから、資金調達を間に合わせていく。スピードを優先するこの方法は、経営者である私自身が選んではいるものの、「資金調達できるかはわからない」「お金が足りていない」という現実と、常に隣り合わせでした。

「果たして、資金は集まるのか?」。不安に引っ張られると、お金のことで頭はいっぱいになりました。

銀行は融資に難色を示し、「出店スピードが速すぎる」などといくつもの銀行に断られていました。店舗別に見れば黒字でも、成長のための投資をしていて決算が赤字である状況では、融資は出せない。

銀行が見るのは未来ではなく、過去ですからね。資金調達の経験がまだ少なかった私は、冒頭のような悪い夢も見てしまうわけです。

そんな苦しかった資金調達のことをはじめ、今回のnoteでは、2店舗目から10店舗まで多店舗展開していくときにぶち当たった大きな壁について。2号店として出店した「銀座マロニエゲート店」の始まりのエピソードなど、飲食の多店舗展開の舞台裏を書いてみます。

1号店開店から3ヵ月で2店舗めの物件探しへ。次は銀座

2016年5月に、1号店となる神楽坂店をオープン。開店した3ヵ月後には神楽坂店のことは共同創業者で弟の謙太に任せ、私は2店舗めの物件探しと、資金調達に動きました。

友人の紹介で、50年以上の歴史があるプランタン銀座がリニューアルして、「マロニエゲート銀座」になることが予定されていて、地下2Fのフードエリアに健康志向のテナントを集めていると聞きました。立地も全体のリニューアルのタイミングで中に入れることも、またとないいい話です。

すぐに動くと、商業施設側が誘致したいお店のイメージに合っていたWithGreenを気に入ってもらえて、トントン拍子に決まっていきました。2号店で銀座の一等地に入れたことは、大きな幸運でした。

1回目となる資金調達(エンジェル投資家によるシードラウンド)も、順調でした。神楽坂に1号店を出したときに、ベンチャー投資をしたいという個人投資家の方たちにお声かけを多くいただき、スムーズに運びました。2016年9月に調達に動き始めて、半年後の2017年2月に約5000万円の調達を完了していました。

その資金を使って、創業翌年の3月には「WithGreen マロニエゲート銀座店」をオープン。9月には3店舗めとなる「WithGreen 北千住マルイ店」を出店しました。

2号店となった、マロニエゲート銀座店

1号店の神楽坂店は、通りに面した路面店の2階です。店舗が1店舗しかない時は、「個」の力で売上を作ることができます。売上が目標に届かない場合、周りのオフィスに売りに行く、友人と夜の飲み会を企画するなどです。対して、マロニエゲート銀座店と北千住マルイ店は、商業施設内ですからできません。

WithGreenのおいしさやサービスという、本来のサービスが問われる真っ向勝負がスタートしました。サラダボウル専門店「WithGreen」としての、はじまりです。

私の感覚になりますが、多店舗展開は3店舗めまでは意外とうまくいきます。創業者の目もいき届くからだと思います。

銀行に悪夢を見せられ、信じてくれたのも銀行だった

さて、創業から3年目の2018年。

エンジェル投資家の資金をもとに、2年目の出店を乗り越えて、攻めるぞ!と1年間で横浜、田町、大崎を追加で3店舗、一気に展開することが決まっていました。一方で、新規店は大崎や田町など面積が大きく、3店舗を展開するために必要な資金は1億円以上になってしまいました。エンジェルから集めた資金は減り、5000万円以上が不足しています。

出店ペースを落とさず、今後の展開のための資金調達も間に合わせていく。創業から成長のために投資をしていて、各店舗は黒字でも全体の決算は赤字だったんです。冒頭で書いたようにいくつも銀行を回っても、断られることが続きました。

銀行融資では限界を感じていて、知り合いに、何かあったら個人的な融資をお願いすることも相談していました。

そうやって、日々資金集めをしていました。20行くらいは、銀行を回ったでしょうか。

資金調達の困難を打開してくれたのは、横浜銀行の支店長Sさんでした。若い起業家を応援したい想いがある方で、融資の相談にいくと「なんとかする!」と開口一番言ってくれて。言葉通り、いろんなところにかけ合って融資の方法を探し、足りない資金の大部分の融資を決めてくれました。

信用保証協会付融資ではなく、多くの支店長がベンチャーにはなかなか使ってくれない、支店長決裁枠を使うリスクを負ってくれたとき、歓喜と感謝しかありませんでした。

最初の銀行になるリスクを取ってくれると、「横浜銀行さんが出すなら、うちも」と他行も続くんです。無事に、必要額の調達を終えることができました。

Sさんが、当時のWithGreenを救ってくれました。起業家は、苦しいときに助けてくれた人を忘れることはありません。いまも良くしていただいていますが、このご恩は一生忘れないです。

粘り強く続けた先にある少しの幸運

会社にとって、お金はなかったらどうしようもありません。成長したくてもお金がないとどうしようもないとき、お金が集まるまで粘り強くやるしかありません。がんばって、がんばって、がんばっていたら、必要な時に、そういう人に出会えます。現れてくれます。

だから私はしんどいときも、辿りつけていないだけ。必ず出会える、どこかに解はある。そう思っています。

全力でやっていれば、最終的に良い結果になる。自分ができることを全部やったとき、運が見放すことってないんですよ。これは、リーマン・ブラザーズの内定を決めて、そこから破綻があってもなんとか這いつくばってきた23歳の私の原体験からきていますね。

チャレンジした初の大型店が「赤字店」に。利益を食いつぶす悲劇

3店舗め以降から、少しフェーズが変わってくると先ほど書きました。多くのチェーン店を見ていても、他店舗の出している黒字を食いつぶす「赤字店」が、間違いなく出てくるからです。「赤字店」の苦しみを経験するのは、3店舗めから10店舗の間かと思います。

WithGreenの場合は、4店舗め、6店舗めでした。

特に、2018年に6店舗めとしてオープンした「With Green Grill & Salad 大崎店」の大赤字はきつかった……。

大型店として初チャレンジの大崎店

2022年に閉店しましたが、大崎駅にあるオフィスビルに入居していました。それまでのWithGreenの店舗は15坪程度だったところ、45坪という話に乗ったんです。3倍の広さで夜はダイニングとしてお酒も提供すれば、お客さん単価も上がり、1000万円以上の売上も見込めるのでは、と算段しました。

ふたを開けると、散々でした。

夜は45坪で50席以上ある広いホールに、5人〜10人しかお客さんがいないこともしばしば。WithGreenのパートナーの人件費の方が、売上よりも高い日々が続きました。山手線JR大崎駅にあるといっても、駅のある反対の方向に10分程度歩いたオフィスビルの中にあるため、予想した集客はありません。

同じビルで働く人が夜に食事をするとの見込みも、大外れ。「自分の職場のビル」で夕食をとる会社員は、多くありません。上司や同僚にプライベートをわざわざ見せたい人は、多くないですからね。私たちの業態と立地が合いませんでした。

100%、私の経営判断ミスです。

あれだけ苦労して資金を集めたのに、毎月100万円〜200万円前後が赤字として出ていってしまう、設備投資と赤字の総額で、相当なマイナスになってしまいました。銀座店や北千住店ががんばって黒字を出しても、この不採算店が足を引っ張ることになりました。

好転させる方法は何かあるはず!と施策は打ち続けましたが、最終的にはコロナの打撃で諦めました(この「失敗話」は、改めて詳しく書こうと思います)。

不採算店はファイナンスの工夫と、新規店の売上でカバー

赤字店を出さずに展開できる経営者の方もいらっしゃると思いますが、多くのはじめての挑戦では、どうしてもどこかで色気が出てしまい、不採算店舗が生まれてしまいます。

不採算店とのつき合いは、ファイナンス能力が重要だと思います。いかに、手元にキャッシュを置いておけるか。また、WithGreenはもともと50店舗を目指していたから、新規店を出していくことで新規店が赤字をカバーし、ほかの黒字店のがんばりでどうにか吸収できていきました。

なんとか、赤字店の赤字を他の店舗で吸収しながら、創業者の給与を抑えたり、フードロスが出ないように食材の扱い方を工夫をしたり、様々な費用を抑えながら店舗拡大をしていき、年間の決算もどうにか黒字になってきました。

決算が黒字になると、一気に融資をしてくれる銀行の幅も広がってきます。やっと、今後の店舗展開において資金調達のメドが立ってきたときに、コロナという次の大きな問題が立ちはだかるのですが……。

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WithGreenのサラダボウルで、日本のおいしさを


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編集協力/コルクラボギルド(文・平山ゆりの、編集・頼母木俊輔)

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