体験者からのバトンをつなぐ|石川勇人さん
こんにちは。with OKINAWAのおこめです。
今回は沖縄の歴史を残していく上で、重要人物になること間違いなしの石川勇人(いしかわ ゆうと)さんです。
学部生時代から沖縄戦体験者への聞き取りや、県内外の若者と共に社会問題に若者が関わることの重要性を発信し続けています。
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これまでの活動
ーーまずは自己紹介をお願いします。
沖縄国際大学院地域文化研究科南島文化専攻で社会学を専攻しています。修士課程1年生の石川勇人と言います。
大学で研究しているのは沖縄戦体験者の聞き取りを基に、戦争体験の継承に可能性についてです。今日はよろしくお願いします。
ーー早速研究内容のお話も出てきましたが、主な活動内容も教えていただきたいと思います。
主な活動としましては3つですね、1つ目は体験者への聞き取り調査で、体験者のお家に自分自身が行って、お話を聴くということを研究を兼ねて行っています。
2つ目は若者緊急ステイトメントです。若者も南部土砂問題について関心を持ってほしいし、声を一緒にあげていきたいという想いでこのアクションの中心メンバーとして活動をしています。
あと1つは、宜野湾市に嘉数区という地域があるんですけれども、そこの沖縄戦の継承事業ということで、嘉数の子供たち向けの沖縄戦学習会のプログラム作りを行っています。
ーー2つ目にあげていた若者緊急ステイトメントというのは学生の皆さんが立ち上げたのですか?
県外の学生さんも含まれているのですが、この訴えの代表である沖縄戦遺骨収集ボランティアの具志堅隆松(ぐしけん たかまつ)さんという方と一緒に自分達も声をあげていくことで社会の問題を解決したい、考えていきたいという想いを持った6人で立ち上げました。
活動しているメンバーの中には、沖縄だけでなく県外で活躍されている方もいたり、この問題に興味を抱いたスウェーデンの大学院生の方もいます。沖縄の問題に限らず、みんなで何かを変えていきたいという気持ちがあれば自ずと一緒に活動できるのではないかと思います。
ーー地域や国境も関係なく若者が社会問題に参加することが1番の目的としているんですね。続いて県内での進学を決めて、この分野を学びたいと思った理由やきっかけを教えてください。
きっかけ自体は高校3年生まで遡ります。沖縄県の事業で「うちなージュニアスタディツアー」という事業に参加したのですが、ひめゆり平和祈念資料館に行った際に彼らに、「なんで沖縄に住んでいる沖縄の人の方が沖縄のこと知らないの?」と言われたことがありました。
本当にこれがショックだったんですよね。自分の住んでいる地域について全く知らないし、それに答えられない。でも、海外の人が沖縄について語れるってなんなんだろう、とすごく思いました。
その悔しさから県外の大学という進路を変更して、県内の大学で1つぐらい専門的にというか、熱量をもって勉強してみたいと思って進学をしました。
ーー初めから沖縄戦について学ぼうと思っていたわけではなく、沖縄の中で1つ自分の語れるものを見つけようと思ったのが大きな動機なんですね。
そうです。(笑)まさかこのような道に行くとは思わなかったですね。沖縄の大学で頑張ろうと決意をしたのは高校3年生の時に開催された「ウチナーンチュ大会」です。そこで開会宣言を実際にやったことですね。
海外の学生さんに沖縄のことを知ってほしいし、私たちも海外の方と繋がりたいと強く思っていたので、当時ジュニアスタディツアーに参加していた学生の中のリーダー的な存在だった6人で開会宣言に立ちました。
その中で自分たちも頑張れば、何か沖縄のことを発信できるかもしれないと思い、これは沖縄の大学に進学する意味が絶対にあるなと感じました。
ーーここまで現在の研究内容について教えていただいたのですが、石川さんの幼少期について伺っていきたいと思います。
幼少期の時から人の話を聴くのが好きだったなという自覚はありますね。小さいころにもらうお土産っておもちゃだったりを欲しがると思うのですが、私の場合は紙と鉛筆だったんですよね。
あの時から人の話を聴くという種はあって、大学時代に急に開花した感じですよね。人の話を聴くときにメモを取るのもそのときから好きではあったので、全部繋がってますよね。(笑)
体験者の声を聴くということ
ーー実際に沖縄戦について学ぼうと決めたのは何がきっかけだったのでしょうか。
沖縄国際大学の社会文化学科に進学を決めてから、1年生の時のゼミが転機でした。
当時吉浜忍先生という沖縄戦の研究をされてきた方の最後のゼミ生だったのですが、ずっと言われていたのが、「現場を知らない人間が現場のことを語ってはいけませんよ」ということでした。
沖縄のことを学ぶ時にその現場に行ってしっかり現場の声を聞けない人はそのことについて語ることは絶対やってはいけないと強く言われていたので、何か1つでもしっかり足を運んで現場の声を聴いてみるということが1番大事だと思いました。
じゃあ、何を研究しようと思った時に、沖縄戦にもともと興味があったかもしれないと思ったので、そこから沖縄戦の聞き取りをしていきました。
ーーTwitterを拝見して白梅学徒隊の皆さんとの関係性が強いのかなと思いました。この方々に出会ってから、自分自身が変わったな感じる部分はありますか?
まずは、白梅(しらうめ)との出会いなんですが、私は大学1年生の時はひめゆりと男子の師範学校ぐらいしか学徒隊は知らなかったです。ゼミの調査で沖縄戦の学徒隊の足跡を辿ることを行いました。
その時たまたま選んだのが白梅学徒隊だったんですよね。そこから大学2年生になって広島経済大学の学生さんが沖縄に来て42㎞以上を歩くというイベントがあるのですがそれに参加させていただいた時に、そのときはじめて白梅学徒隊の方にお話を聴くという機会がありました。
この方たちに出会って感じたのは、体験者の方と直に触れ合いながら体験者がいなくなった後、どのようにこの気持ちを受け継いでいけるのかなということでしたね。
彼女たちが亡くなった後も慰霊祭を続けてほしい、白梅のことを伝えてほしいとよく言うのですが、そこから継承というところを意識するようになりました。
ーー体験者がいない状況を意識して聞き取りを行う最初の体験になったんですね。これまでの経験を聞かせていただきましたが、周りの反応はどのような感じだったのでしょうか。
両親にはびっくりされましたね。(笑)「なんでこんなにしんどいことしてるの。でも大切なことだから頑張りなさい。」と言われてからは好きなようにさせてもらっていますね。
友達の反応としては、やはり外でしっかりとした活動をしていると距離感が生まれてくる時があるなと感じたことはもちろんありますね。例えば学生同士のサークル活動ではなく、実際に本気で継承を考えるというのが外部の団体にはあるので、自分たちとは違うと思われて距離感がありましたね。
でも、自分の活動が紙面に紹介されると周りの後輩が見てくれるということから、やっぱり同じようなことを考えている学生さんはいるなと思いました。その中で熱量をもって活動したい学生に自分の活動が届いていると感じることもできました。
固定観念からの脱却
ーー幅広い社会問題について関心を持っていると思うのですが、沖縄じゃなければ学べないと感じることはありますか。
特に沖縄戦の聞き取り活動に関しては沖縄でしか聴けないこともあると思うんです。でも、平和学習という視点に広げて考えてみると、昨今の状況でリモートを通して体験者と出会うこともできるようになったので、沖縄だからこそ沖縄戦を学べるという固定観念が崩れるいい機会になったと感じています。
そもそも戦争体験が次世代伝わっていないところが問題視されている中で、「沖縄に行かないと聴けない」というものから、オンラインという場で体験者と出会うことが出来る機会が増えたという点においては、プラスに考えていいのではないかと思いますね。
ーーこの機会に「沖縄じゃないと」ではなく「沖縄以外でも」ということを意識することが重要ですね。ここで、このような戦争体験を伝える継承者と言われることに対してどう思っているのかも教えてください。
紙面では継承者と書かれるのですが、メディアの方に「継承者なんていう堅苦しい思いは1度もしたことがない」と言っています。(笑)
継承者じゃないと言うと、じゃあなんでこんな活動をしているのかと絶対聞かれるのですが、それは体験者と結んだ「約束」があるからなんですよと言っています。聞き取りをする中で、少しでも自分たちの体験を伝えてほしい、生きた証を繋いでほしいと言われる方が多いので。
ですから、それを言葉で伝えるであったり、メディアを通して自分自身が発信するということが聴いた人の出来ることだと思っていて、体験者から受け取ったバトンだと解釈しています。
ーーよく若いのにすごいねと言われたりすると思うのですが、あくまで、体験者に出会った自分がどれだけ残すことが出来るかを意識しているんですね。
継承者というと、少しでも関心を持っている学生に対してハードルが上がってしまうと思うんです。これまでに継承者として立たれている方がいるからだと思うのですが、自分もそんな人にならないといけないというイメージになってしまうと、プレッシャーを感じて次の世代が育たないと思うんですよね。だからこそ、いかにそのハードルを下げられるかが大事だと思います。
ーーその考えは同じ若者としてありがたいです。それでは、今のこの活動をどのような形で残したいかという展望などを教えてください。
とりあえずは、本に残していきたいですね。これまで30人ほどの方に聞き取りをしてきましたが、しっかり聞いてきた方のバトンを「形」として残したいという意味で本を考えています。
また、戦前・戦後の生活など映像では残っていない部分をいかに残せるかというのも大事な視点になってくるのではないかと思いますね。
ーーそれでは研究者としての目標を教えてください。
力を入れてやろうと思っていることは、体験者の声を自分が伝えられる、残していけるようにすることですね。中にはずっと語れなかった人達もいるので、聴いたからこそ何らかの形でこの人たちの声を残していくような活動をしていきたいと思っています。
ーーありがとうございます。それでは最後に、石川さんの沖縄の好きなところを教えてください。
平和通りとか国際通りが好きですね。じっちゃん、ばあちゃんたちと会話をしながら買い物を楽しめる空間というのがものすごく好きなんですよね。沖縄の特産物や沖縄の料理について生き生きとしゃべっているところを聞きながら、美味しく食事を楽しめるところが好きです。
研究しているとインドアになりがちなので、ストレスが溜まらないようにアウトドアで発散しています。研究と遊びの時間はきっかり分けて楽しんでいますね。(笑)
ーー今回お聞きしたことを私自身もしかっり残していきたいと思います!本日はありがとうございました。
↓石川さんのTwitterとnoteはこちら
おわりに
実は、私おこめは6月23日の慰霊の日生まれということもあり、沖縄戦の話を聴くことにとても興味がありました。今回石川さんにインタビュー出来ることになって、どんな人が沖縄戦の継承活動を行っているのか気になっていました。
実際にお話をしてみて、とても気さくで優しい方だったこともあり、この人だから沖縄戦の悲しい思い出を受け止めることが出来るんだろうなと感じました。
平和学習と言われて難しさを感じる人も多いと思いますが、沖縄戦という大きな歴史の中で、自分の地元で何があったのか、おじいちゃんおばあちゃんがどんな生活をしていたのかなど、自身の生活に結びつきが強いものから1つ1つ知っていくことが第一歩になるのかなと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
with OKINAWAは、沖縄のために活動されている方や沖縄で活躍されている方へのインタビューを通して、沖縄の学生たちがもっと沖縄を好きになってもらえるよう活動しています。
ライター:おこめ
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