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【小説】恋の成仏短歌1 「朝の予感」

あらすじ

振られた人、付き合った人との思い出は誰かと語ることがある。でも振られるまでも、付き合うまでもいかなかった、中途半端な恋の思い出たちも心のどこかには残ってて。

誰にも語ることのなかった過去のモヤモヤを10人の主人公が「短歌」にすることで、それぞれの想いを成仏していきます。

経験したことがあるようなないような、見過ごされがちな恋の物語をお楽しみください。

第1話「朝の予感」

大学を卒業して4年。それぞれ働き始めて、サークルでほぼ毎日顔を合わせてたみんなともなかなか会えない中で、あの日は久しぶりの飲み会だった。

久しぶりに会うちょっとした緊張感と恥ずかしさが、アルコールのおかげで少しずつほどけていって。一次会が終わる頃には、みんな声のボリュームがシラフのときの3倍くらいになってたんじゃないかなあ。もちろん、私も含めて。

ちゃんと理性を保ってた数人以外はほぼそのままのノリと勢いで、二次会に流れていって。

気づけば時間は23時50分。

0時を過ぎても終電はあるけど、そろそろ帰りを気にしなきゃなー。ほわほわの頭でぼんやり考えていたら、みんなもなんとなく同じ雰囲気になって、最終的には声のボリュームが5倍くらいになった状態でみんなで駅に向かったんだっけ。

JRか地下鉄か。いくつか選択肢がある中で私は地下鉄組だった。JRの方が人気で、私の他に地下鉄組は3人。みんなで一緒に地下まで降りつつも、2人は路線が違うってことでバイバイして。

目の前に残ったのが、彼だった。

地下鉄組で一緒なのは知ってたし、まあ正直ちょっと嬉しかったけど……確か違う路線じゃなかったっけ。

でもここ数年で引っ越したのかもしれないし、誰かの家に寄るのかもしれないし、こちらから聞くことでもない。多少酔いすぎてテンションが高い彼が心配だけど、流れに任せて一緒に帰ることにしよう。

私の最寄り駅は5つ目の駅で乗り換えて、そこから3つ目の駅で降りたところ。

乗り換えまでそれなりの時間があるから、彼とは一度並んで座って今日盛り上がったねーなんて無難な話をして。

「じゃ私ここで……」

と5つ目の駅で立ちあがろうとすると、なぜか彼もついてきた。乗り換え駅まで一緒なのか。

乗り換えるにはメジャーな駅だから、と自分に言い聞かせて。「帰りどこなの?」とはあえて聞かずにそのまま一緒に流されることにした、あの時。

私はもはやこの状況を楽しんでたと思う。

乗り換えたあと、さすがに行き先を聞かないのも不自然に思えてきて「どこまで?」と聞いたけど……「もう終電ないかも」なんて突然言うから。

ああこの人は話が通じないレベルで酔ってるんだなあと心配になりつつ。

結局うちの最寄駅で降りたんだよね。

電車を降りて、1番出口に向かう階段を上って、外に出る。誰にも見られないのをいいことに、毎日気の抜けた表情で歩く道。

あの日そこに彼がいたのは、違和感しかなかった。

どうしよう。もう終電はないけど、いい大人なんだからタクシーで帰ることもできるよね。

そんなことを思いながら、このあとどうするつもりなのかなんて聞けなくて。とりあえずいつものコンビニに立ち寄って……あのセブン、まだあるのかなあ。

タクシーで帰る健全コースと、
うちに来る不健全コース。

どっちを望んでたのか、自分の中で答えは出てたけど。お互いハッキリしたことは何も言葉にせずにひとまずお酒コーナーに行ってみる。

カゴをとって、彼は缶ビール2本と、シードル1本を当たり前のような顔で入れてる。私も慌てて、缶ビールを1本だけ入れてみる。

あんなに酔ってたのにまだ飲むなんて、今じゃ考えられないけど。あのときは多分、舞い上がってふわふわしてたんだろうな。

なんだか気が大きくなってきて、アイスコーナーのハーゲンダッツもなんのためらいもなく入れたっけ。一人じゃもったいなくて絶対しないのに。

それほどあの夜は、特別だったんだ。

そろそろレジに向かう流れかと思っていたら、彼が立ち止まったのはパンのコーナー。

ビールもシードルもアイスだって、夜のうちに消化するつもりだったけど……パンはさすがに、今食べないよね?

不健全コースが確定して、
朝の予感がした、あの瞬間。

セブンを見ると今でも思い出しちゃうのは……
私だけかな。


立ち寄ったコンビニでパンを共に見る
朝まで一緒にいれるのかなあ


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