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マックのポテトを食べてからじゃないと家に帰れない
今年もあっという間に残り1ヶ月をきって。年末が近づいてきた。
忘年会にクリスマス、年が明けてからのおせちやお餅。独特のムードは楽しいけれど、おいしいものたちに囲まれてぶくぶくと太るのは怖い……
それでも今までは、少食と言われる方で。大盛り&完食がマストの夫には引かれ、フードロスを指摘されるくらいにはよく残してしまっていた。
そんな私が今年に入って初めてした、「食べたい」が頭から離れないという経験。それはまるで他人の身体を借りているような、初めての感覚だった。
平日の仕事終わり、私は大抵の場合寄り道もせずまっすぐ家に帰る。週末に準備したつくりおきが、冷蔵庫の中で私を待っているからだ。
でも今年の春先の私は違った。
帰る前にどうしてもポテトが食べたい。
会社を出た瞬間、どうしようもない衝動に駆られる。
なんでもいいわけじゃない。マックのあの揚げたての細いフライドポテトが今すぐ、どうしても食べたいんだ。
このまま食べずに電車に乗れば、きっと私はこのどうしようもない気持ち悪さに勝つことができないだろう。
夜の街に煌々と輝く「M」の文字に引き寄せられて、立ち寄らない選択肢なんてなくて。気づけば「ポテトでも食べて帰ります」と夫にLINEをしていた。
妊娠するまで知らなかったけれど、世の中には
「食べづわり」というものがある。つわりといえば、ウッと吐き気がして手をおさえる……というのがドラマとかでよくあるイメージ。
食べづわりは違って、「食べてないと独特の気持ち悪さに襲われる」もの。ウッ!とは違う、静かにじわじわ襲われるなんとも言えないしんどさがあり、空腹が一番の天敵。怖いくらいに食べものが手放せなくなるのだ。
ポテトを目の前にした私は周りの目も気にせず、むさぼるように食べていて。そんな生活を何ヶ月も続けていたもんだから、私の体重は赤ちゃんの分を抜いてもみるみる増えていった。
それまでの自分と比べ物にならないくらいに栄養をとりすぎていて。太るというよりも「肥える」という表現が似合う身体になっていた。
急に食い意地を張る自分に、肥えていく自分。周りの目がいつになく気になって、あの恥ずかしさは今でも忘れられない。
出産前と比べてプラス10キロまでは、増えていい。出産を前にしてそう言われていたけれど、私の体重はゆうにそれを超えていて。
ポテトやらドーナツやらで膨れ上がった身体は、出産を終えて2ヶ月経とうとしている今も元に戻る気配はない。
少食だった頃の自分を思い出すと信じられないくらいお腹はタプタプで、別人のような身体になってしまっている。
手入れできてない髪に眉、引きこもり生活での部屋着の姿も相まって、自分でも見るに耐えない悲しいビジュアル。
鏡を見るたびに落ち込むし、知人はもちろん、宅配便の人にも申し訳ない気持ちになるほどだ。
「少しでも減ってますように!」
なかなか減らないことはわかっていても、毎日そう願いながら体重計に乗る。そんな中、週に一度、火曜日だけは娘と一緒に乗っていて。
娘+自分の体重と、自分だけの体重を比べることで娘の体重を測るための儀式だ。
「ちゃんと増えてますように!」
火曜日だけは、そう願いながら娘の成長を確かめている。
一人で乗る時は減ってることを願うのに、娘と乗る時は増えてることを願う……なんだろうこの矛盾は。どっちだよ!と自分でもちょっと、笑ってしまう。
体重計での願いが届いているのか、娘の体重は順調に増えている。
それもそうだ、おっぱいやミルクが少しでも足りなければ、夜中だろうと明け方だろうと時間に関係なく泣いて主張するんだから。
周りにどう思われるかなんて気にせず、「欲しいものは欲しいの!」と言っているかのように。
満足そうな顔をしながら、大福みたいにぷくぷくになっていく娘。そののびのびとした姿はなんだかうらやましいし、欲しいものをちゃんと欲しがって、健やかに生きていく大切さを教えてくれてる気がする。
いつから私たちは、恥ずかしくない姿でいたいと思ったり、人と比べて見た目を気にしたりするようになったのだろう。
自分がこうしたい!これを食べたい!という欲求よりも、周りからの評価を優先するようになってしまったのだろう。
ちゃんと栄養をとって好きなもので満たされて、身体も心も元気でいられることが何よりも大事なのに。
娘がおっぱいやミルクを欲しがるように、私は自分の欲しいものをちゃんと欲しがれているだろうか。
いい歳した大人なんだから、赤ちゃんみたいにはいかないけれど。
必要以上に我慢して、周りと比べて。自分のことを嫌いにならなくてもいいのかもしれない。
周りなんて関係なく自分が欲しいものと向き合って、自分で自分を満たしてあげることが私たち大人には必要だ。
肥えてしまった身体は一旦置いておいて。年末年始くらい頑張った自分を甘やかして、好きなものを食べてから一日を締めくくればいい。
さあ、あの夜みたいにマックのポテトを食べに行こう。
周りに引かれるほど、むさぼるように食べよう。
誰のためでもなく、自分のために。
満たされてから帰れば、今日もキラキラとした目でおっぱいを欲しがる娘が待っているから。