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【小説】恋の成仏短歌6「アプリの駆け引き」

街のカップルを見かけて、いつも思ってた。
みんな、一体どこで出会ってるんだろう?って。

合コンに勤しんだこともあったけど、コスパの悪さにすっかり疲れきっちゃったし。

いつのまにか学生時代の男友達も、会社の同期も、みんな彼女ができたり結婚してたりして。

すっかり「出会い方」を忘れてしまってた、あの頃。

みんなそれぞれ出会い方のコツを持ってるのに、秘密にして教えてくれないのかな……なんて、自分だけが置いてけぼりになってる気さえしてきて。

「とりあえずマッチングアプリがんばりなよ」

唯一、昔からの女友達がくれたヒント。

マッチングアプリ。

私だって全く利用してこなかったわけじゃない。名前をよく聞くものをいくつかダウンロードして登録してしばらく使ってみたけど……全然うまくいかなくて。

そもそも何枚かの写真とプロフィールだけで相手を判断するなんて無理だし、メッセージが来たと思ったら申し訳ないけど「ないな」って人ばっかりだし。

良さそうな人にたまに自分から連絡してみても、返事が来ることなんてほとんどなかった。

結局アプリで成功できるのは、選ばれた一部の「かわいい子」だけなんだ。

そんな現実を突きつけられてから、すっかりアプリからは遠ざかって。「今なら期間限定でマッチング率がアップ!」なんて、宣伝メールだけがどんどん溜まっていく日々だった。

ただでさえ出会いがないのに、マッチングアプリも頑張れないなんて……さすがに女としての努力が足りないのか?

女友達の一言にハッとさせられて、久しぶりにアプリの一つを開いて、ログインしてみた。

次々に現れる人、人、人。

ほどよい爽やかイケメンが表示されても、どうせ自分なんか……と思ってアクションする気が失せてくる。

やっぱり厳しいよなーとあきらめつつ、メッセージの受信箱をチェック。長くログインしてなかったから、何件か溜まってるのがわかった。

上から順に見ていくけれど……うーん、やっぱり厳しい。

わかってる、こんな私が見た目で相手を判断するなんて許されないし「何様のつもり?」って、自分でも思う。

それでも心動かされないのだから、これはもう仕方ない。

あきらめ半分で最後の1通を、開いてみる。もう1ヶ月も前に届いたものだ。

「はじめまして。僕も東横線ユーザーです!よろしくお願いします」

一人称が「僕」なことにほんのり誠実感を覚えつつ、アイコンに目をやると……悪くない。どの口が言ってるのかってかんじだけど。

写真で見る限り、自分の好みよりかは塩顔寄りで、穏やかそうな雰囲気。

プロフィール画面を見ると、ビールを飲んでる写真や野球をしてる風の写真が何枚か登録されてて……歳は1つ歳上。仕事はIT会社勤務。

うん、これまで見てきた中ではかなり悪くない。

マッチングアプリの怖いところは、いろんな人を短時間で見るから相対評価になるところ。あの人と比べればマシ。悪くない。

そんな感覚からメッセージのやり取りが始まっていく。

「メッセージありがとうございます!そうなんですね、こちらこそよろしくお願いします」

可もなく不可もない返事を、ひとまず送ってみた。

そこから彼とは一日一回、メッセージを交換するようになって。

いつも向こうの方が既読になるのが早かったし、いつも向こうの方が少しだけ長めの文章だった。

マッチングアプリのメッセージはとにかく、駆け引きが大事。

期待を持ちすぎず、持たせすぎず、少しずつ相手の情報を引き出して、共通点を見つけ出していく。

これにはなかなかのテクニックが必要で、正直1回のメッセージを送るのに20分はかけてたと思う。何やってるんだろうってたまにバカらしくもなったけど。

それでも、少しずつやり取りは「日常」になっていって。

「さっき仕事終わりました〜近所のカフェでケーキでも買って帰ろうかなと」

「いいですね、ケーキ。僕お酒も好きですけど甘いものもすごく好きです!」

「そうなんですね!甘いものが好きな男性はモテますよね」

「えっそうなんですか?笑 僕もコンビニでプリンでも買って帰ろうかな」

あれだけ一通を返すのに時間をかけていたのに、気づけば既読にしてすぐ返すことにもためらいはなくなってて。

私がメッセージを送れば必ず返してくれて、自分から絶対終わらせないところも、私にとってはありがたかった。

正直ちょっと、自分の方が「思われてる度」が高い気もして。

なんでもないやりとりが続く中で、どっちが次の一手を打つか。駆け引きの日々の中で、その誘いは突然にきた。

「よかったら今度お茶しません?」

ついにきた、「対面する」というマッチングアプリユーザーにとって最大のイベントの提案が。

メッセージが来てから読むまではすぐだったけど、返事はすぐにしなかった。

多分それは、嬉しかったから。

向こうから提案してきた喜びに、しばらく浸っていたかったから。

振り返ればその後会って、お茶して、ご飯にも行って、それでも何も生まれなかったのだけれど。

それでもあの瞬間私は久しぶりに舞いがってたし、間違いなく自分に自信を取り戻してたと思う。

恋は駆け引き。疲れるし、いまだに正解はわからないけど。マッチングアプリでもそれ以外でも、通らないといけない道なのだと思う。

この駆け引きに勝てる日は、くるのかな。
彼はどこかで誰かとの駆け引きに勝ったのかな。

答え合わせができないまま、今日もまた期待しすぎないようにして、受信箱の中身を確認してる私がいる。


誘われてもったいぶるこの優越感
がまんできずに結局負ける


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