【小説】恋の成仏短歌4「締めの麺」
1年前からあの日だけを楽しみに頑張ってたのかもしれない。それほど長い、道のりだった。
自分が担当する中では初めての大型プロジェクトが終わって、メンバー全員での打ち上げの日。
やっとやっと、迎えられた。
よく頑張ったなあ、自分。
すっかり気が抜けそうになりつつも、主要なメンバーだけでも20名はいるプロジェクト。打ち上げをしっかり盛り上げて、みなさんに感謝を伝えることも私の仕事だ。
日程調整に、味も値段もほどよいお店選び。お互いにちゃんと話せるような席になってるか、2時間で追い出されることがないか……などなど、心配はつきない。
飲み会の幹事って奥が深いし、立派な仕事。もっと褒められてもいいのに、とつくづく思う。
この大変さを唯一分かち合えたのは、1つ下の後輩。歳が近いからか、後輩のくせに全然先輩扱いしてくれなくて。タメ口まじりで生意気だけど……それでも、なんだかんだ仕事はできるしここぞってときに頼りになるやつ。
あの時もお店の候補出しを手伝ってくれたり、集金係に名乗り出てくれたりしてたっけ。ああいうときの後輩力はさすがだなあ、と思う。
*
「かんぱーーーい!!!!」
数人の遅刻者を除いて、ほぼ時間どおりにスタート。
プロジェクトを統括してきた立場として真ん中の席に座るようにみんなから勧められたけど、結局幹事らしく手前の端の席を選んで。気持ちよく喋る向かいの先輩の話をひとまず聞き続けてた私。
ちらっと見渡すと、目に入ったのは離れた奥の方の席に座って、後輩女子たちに囲まれて楽しそうにしてるあいつ。まったく、相変わらず調子のいいやつ。
それぞれにお酒も進んで、時間が経つにつれて明らかに場が盛り上がっているのを感じて……これで私の仕事も終わりだ!とホッとしつつ。
結局固定された席は変わることなく、私は最後まで手前の端に。あいつは離れた奥の方に座り続けて、最初と最後で変わったのはお互いが摂取したアルコールの量だけだった。
「お疲れさまでした!二次会は予約してないので行きたい方は各自でどうぞ〜!」
若い頃は二次会までしっかりセッティングする気概があったけど、当時10年目の私のスタイルはこんなかんじ。この年次で幹事やってただけでも褒めてもらいたいし、特に罪悪感はなかった。
*
20時スタートの3時間コースだったから、一次会が終わった時点ですでに23時。まっすぐ帰っても全くおかしくない時間だった。
でも金曜だったし、盛り上がりそうなメンバーが行くならちょっとだけ行きたい気持ちもあって。あいつの様子を遠目から伺ってた。
行くのか行かないのか、誰もハッキリしたことを言わないままみんなでなんとなく駅へ向かう。これはもう、大人しく帰るパターンかもなあ。そんなことを思っていたら
「先輩ちゃんと飲みました?」
あれだけ同じ空間にいたのに、そういえば今日初めてあいつから話しかけられたかも。
「飲んだ飲んだ。そっちこそ、女子たちに変な絡みしなかった?」
してないっすよー、とふにゃふにゃ笑う調子の良さにあらためて呆れつつ。
「なんか小腹すきません?」
それは突然の提案だった。
「先輩のおごりだったらラーメンで締めてもいいなー」
一体こいつは何を言ってるのだろう。勝手にお腹をすかせて、勝手に人におごらせようとしてる。
「いや、おごらないでしょ笑」
「とりあえず行きますか」
駅に着きそうなタイミングで「じゃ、お疲れさまでしたー!俺たちこっちなんでー!」と他のみんなと勝手に分かれて、気づけば彼が知ってるというラーメン屋に連れていかれる流れに。
「よくそんな食べられるね?」
「飲み会のときって意外と食べられなくないすか?」
お店に向かう道中の、なんてことない会話。でもちょっとだけ、わくわくしてたのはプロジェクトが終わって初めて迎える金曜の夜だったからってことにしよう。
「あれ?このへんだと思ったんだけどな……」
自信満々に連れていかれた場所にお店が存在しないという、まさかの展開。酔っぱらったやつを信じた私がバカだったか。
「もういいよ、帰ろう」
期待どおりの展開にならない夜。こんなのも私らしくて、いいじゃない。そう自分に言い聞かせて、Uターンしようとしたら。
「カップ麺にしません?」
コンビニを指さして、まさかの提案をしてくる。どこまでいっても読めないやつだ……
「いやいや食べるとこないっしょ」
「歩いて20分くらいでありますよ」
イートインスペースがある別のコンビニなのか、公園なのか。いくつか選択肢を思い浮かべたけど、あえて聞くことはしなかった。
今からカップ麺を買って20分歩いたら終電が危ない。
そんな事情も、今日は特別に無視することにした。
「あいつの家の最寄りはこのへんだったはず」そんなぼんやりした記憶だけを頼りに、その夜に飛び込んだ私。
あの日選んだチリトマトヌードルと、一口もらったシーフードヌードルの味は今でもちょっと、忘れられない。
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