【小説】恋の成仏短歌 あとがき
もしあなたが過去の恋愛遍歴を聞かれたら、どんな人が頭に思い浮かぶでしょうか?
付き合った人。振った人。振られた人。
わかりやすい登場人物以外に存在するのが、名もない恋の相手たち。
10人の主人公たちにも、それぞれにそんな相手がいました。
ドラマチックさとはかけ離れた、誰かに語るには中途半端すぎる思い出たち。
お酒の勢いで朝まで一緒にいるのかいないのか、の狭間にたどり着いたこと。
彼女がいるのかも聞けないまま、相合傘されたこと。
その後何もなかったことが信じられないくらいの、完璧なデートをしたこと。
帰り道にラーメン屋じゃなく「自宅でカップ麺」の可能性を提示されたこと。
夜しか会わなかった相手に、昼の予定を申し込んだこと。
何も生まれないながらに駆け引きを楽しんだ、マッチングアプリのこと。
告白まがいのことを言われ、タクシーで葛藤したこと。
名付けられない関係の中、アパートで一緒にアイスを食べたこと。
気づいてはいけない感情と、越えてはいけない線に向き合えなかったこと。
100%は満たされなかった花火大会のこと。
どれもちょっとかわいそうなような、滑稽なような、少しうらやましいような。
名もないモヤっとした思い出たちは今さら語られることはなく、ついつい忘れたフリをされてしまう。
それは付き合ったり別れたり。マンガやドラマみたいなわかりやすく楽しい展開がなくて、伝えるのが難しいから。誰が聞いても楽しい話じゃないから。
あと、もしかしたら今一緒にいる大事な人を傷つけてしまうかもしれないから。
捨てる場所を見つけられなくてゴミを持ち帰るように、自分の中で持っておくしかない。
でも消えることなくどこかに残り続けてて。
本当にそれはゴミ、なのかな?
大事にしすぎなくても、完全に捨てて無くさなくてもいい。
何年も経った今、ほどよく向き合うことができたら……
伏線回収ができて、ちょっとだけ、あの頃の自分が報われるのでは。
マンガにもドラマにもしてもらえないかもしれないけど。
自分のための心の短歌が、自分を少しだけ、救ってくれる。
ほら、ゴミになってたかもしれない思い出たちが、立派な短歌集になった。
これからも日常は続いていくし、過去の名もなき思い出なんて取り出す暇もないかもしれない。
それでもあなたの人生をつくるエピソードであることは間違いなくて、その重なりが今のあなたをつくっているから。
もし捨てる場所がなくて、抱えきれない思い出を見つけたら。
この先わかりやすい形にならない、名もなき恋をしたら。
詠んでみてください。
あなただけの「恋の成仏短歌」を。
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