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36歳はじめてのおつかい

次の日曜日は絶対ベビーカーでおでかけする。

先週は週の初めから、そう決意していた。

去年、11月にベビーカーデビューをして以来すっかりベビーカー恐怖症になってしまった私。

(詳細はこちら)

出かけるときは夫に車を出してもらうか、自分で抱っこ紐で歩いていくかの二択にして、ベビーカーは折り畳んだ状態で玄関に放置していた。

まずい、このままだと永遠に恐怖症を克服できない……!

意を決して夫が一緒に出かけられる日に練習しよう、と思ったのが先週の日曜日だった。


設定したコースは、(自分的には)なかなかハードルの高いもので。まずは隣駅まで30分近く歩く練習をする。そこから電車に乗り、数駅先のショッピングモールに行ってまた電車で帰ってくるというものだ。

いざ出発!と思いつつ、前回の成果はどこへやら。折り畳まれたベビーカーを広げるところから大苦戦。夫にあれこれ言われながらなんとか思い出して、マンションを脱出するところからスタート。

自分たちの部屋を出てからエレベーターに乗るまで2回も大きな段差があり、相変わらずそこには緊張しつつ……ひょいっと車輪を持ち上げる感覚をなんとか思い出し、無事クリア。

そこから隣駅までひたすら歩く間、夫にはすこーし離れたところから見守ってもらうことに。

一緒に話しながら歩くと、一人で出かける練習にならないから……謎のストイックさを発揮しつつ、その様子は36歳にして「はじめてのおつかい」状態。

歩道の右側を歩くべきか左側を歩くべきか悩んだり、歩きづらい道を選びそうになったり、すれ違う人たちに緊張したり、道を間違えそうになったり。

あまりのハラハラ具合に、夫がはじめてのおつかいのBGMを歌い、ナレーションのモノマネまでし始めた。なんという恥ずかしさ。

そんな夫だが、絶妙な距離で我々の後ろを歩いていて不審者に見えなかっただろうか?ということが今でも気になっていたりする。まあ、本人は目の前で繰り広げられる大冒険を楽しんでいたようだからいいか。


赤面しながらもなんとか駅までたどり着き、次は難関の電車へ。

長年使っていた隣駅なのに、改札までのエレベーターの場所を初めて知ったり。乗車位置はどこがいいのか悩んだり。車両に乗るまでも戸惑いと発見の連続で、ベビーカーひとつでこんなに見える世界が変わるのか……とあらためて感心。

同じホームにいるベビーカーの先輩方は、持ち手にいろんなおもちゃをぶら下げたり、下の荷物入れを使いこなしていたりして。まっさらなベビーカーを持つ私とは大違い。早く先輩方みたいになりたい……この初心者感から抜け出して、こなれ感を身につけたい……!と強く思うのだった。

結局、空いてそうな一番端の車両に乗り、ドキドキしながらドアの近くに立って。空気を読んでくれたのか、私を見兼ねたのか、前回とは違ってずっと眠っていた娘。頼りない母でごめんよ。おかげで今回は落ち着いて乗車できたよ。


車輪を引っ掛けることなく、なんとかスムーズに電車を降りて、同じ駅で降りたベビーカーの先輩方についていきエレベーターも無事発見。

ショッピングモールまでの道のりはファミリー連れだらけ、ベビーカーだらけだったからか急に孤独感がなくなり、気持ちに余裕ができた。やっぱり仲間って、大切だ。

せっかくショッピングモールに来たなら!とこの日初挑戦したのがフードコートでの食事。

日曜日のお昼時なんて混んでることが確定している中、なんとかカウンター席をゲットしてベビーカーを横につけ、夫と交代で食事を買いに行くことに。

家では食べられないものを食べる!という強い意思を持ち、私が選んだのはこれ。

ちゃんぽんと餃子。麺類は家だとタイミングが難しくてあきらめがちだし、たくさんの野菜をとるのも難しいし……そんな私にぴったりすぎるメニュー。

夫が自分の食事を買いに行っている間に一人で、娘を横目に食べる……という状況ではありながらも、とんでもない幸せを感じて。この日一番のごちそうだった。


そろそろ娘のお腹が空いてくる頃……ということで次のミッションは授乳室探し。

早速ミルクのマークを発見し、行ってみるとオムツ台が並びお父さんたちも入ることができる「ベビースペース」と、お母さんたち限定の「授乳室」にスペースが分かれている。なるほど、こういう気遣いがあるのか。

授乳室の中もさらにスペースが分かれていて、お母さんたち同士が会話もできるオープンな場所と、完全な個室の両方があった。ひと口に授乳室といっても、いろんなタイプがある。あちこちの授乳室を比べるのもおもしろいなー、と新たな趣味にしたくなる勢いで興味深かった。

オムツ台ではほっこりしたやりとりもあって。隣でオムツ交換していた1歳の子が娘を覗き込んできて、「覗かないの!」とお母さまが注意しつつも「こんにちは!何歳ですか?」と声をかけてみると……そこからお母さまとの会話がスタート。

「1歳なんです」「うちはまだ3ヶ月で」「わあ〜懐かしい〜!君にもこんな頃があったんだよ」
2分程度のなんでもないやりとりだったけれど、優しい世界に触れた気がして気持ちがあたたかくなった。母になるまでは知らなかった世界が、あちこちに散らばっている。なんておもしろいんだろう。


オムツ交換と授乳を無事済ませた私はアルマゲドンのテーマ曲と共に「生還した」という表現をしたくなるくらい、達成感でいっぱいだった。大袈裟なのはわかっているが、新米の母親にとっては一つひとつが大ごとなのだ。

その後飲み進まないミルクをほどほどにあげ、妊娠時に通っていたアカチャンホンポに立ち寄ってはエモくなり、ショッピングモールを後にして帰宅して……36歳のはじめてのおつかいは幕を閉じた。


帰宅後は、当然ヘトヘトでソファで寝落ち。こんな母に連れられて、娘も相当疲れたはず。おもしろがりながらもハラハラドキドキが続いた夫も、それなりに疲れただろう。

家族を巻き込んでのはじめてのおつかいは、またすぐに行こうとは思えないくらいの大冒険だったけれど……なんとも言えない達成感と、幸福感に満たされたのは間違いない。

いつか、ジャラジャラのおもちゃ付きベビーカーを乗り回すこなれたお母さんを目指して。

この日のことはそっと、思い出の1ページとしてしまっておきたいと思う。

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