【参考書レビュー】『大学入試 飛躍のフレーズ IDIOMATIC 300』山崎竜成
発売前からX(twitter)などで注目を集めていた話題の新刊学習参考書。著者は昨年(2023)発売の単語集『大学入試 無敵の難単語PINNACLE 420』の著者の一人である駿台予備校講師の山崎竜成先生。
上は私のnoteでは現在もっともビュー数の多い投稿の一つで、こちらでは早慶志望の2冊目の単語帳を紹介しました。ただ熟語帳にはあえて触れていませんでした。私の考えとして、日常的な句動詞は多種多彩に使い回されるものだから、長文や会話など自然な文脈の中でおぼえるべきものであり、take care of =世話をする、のような一フレーズ一訳のかたい熟語暗記はむしろ有害な面もあると思っていたからです。
しかし本書は違います!
例えば、take care of X一つをとっても、「Xの世話をする」以外の「Xを引き受ける、処理する」や受験英語の枠を越えたアクション映画などで見られる用法にまで言及してあります。
こういった質の高い課題英文・解説のすべてを山崎先生自身がすべて書き下ろしされたというのだから驚きです!
また先日の第362回TOEIC L&R公開テストでも注目を集めたafter allの用法なども、本書では多岐に渡る語句のニュアンスを「コラム」も含めて深く解説されています。
上のnoteでも具体例と共に少し触れていますが、類書にない質的な特徴の一つは、大きな文脈を踏まえた「フレーズ」の概念の拡張と言えるでしょう。after allの「だって〜だから」という対応日本語訳だけでなく、その後ろには「代弁・譲歩」の内容がきて、さらにbutやhoweverでひっくり返して筆者の論点を導入する流れがよく来ること。こう言った知識があれば論理展開も先読みしやすくなるし、そのことで速読やリスニングにも良い効果を期待できるはず。これが本書の言う「英語の感覚を磨く」ということなのでしょう。
そして最大の特徴を挙げると、その圧倒的な情報量の多さと暗記の推奨となります。これは近年の受験英語界の流れを考えると異色と言えます。いわく、たった◯時間で速習、最短で駆け抜ける、暗記不要、こういった耳あたりの良い情報量を絞りに絞ったコスパ・タイパ重視なものが(もちろんそういったもの自体のニーズは否定しがたいとはいえ)時流となっていますから。その中で、CHAPTER1の扉ページに、
と謳ったかと思えば、
(ちなみにこれ自体『英語は決まり文句が8割』とかその元ネタの『人は見た目が9割』といった定型表現からきています)
CHAPTER2の扉ページには、
とまでお茶目に言い切る潔さというか身も蓋もなさ。しかしそれは語学に真剣に取り組んだことのある人だったら、いや、結局はそういうことなんよ、暗記しないでいったいどうやって言葉を使いこなす?暗記甘くみんな!などと深く首肯してしまう説得力があるのではないでしょうか。
ただ情報量が多いとはいってもすべてを網羅できるわけではもちろんなくて、関連フレーズを例文なしで列挙してある箇所も少なくありません。有為の学習者はそこからさらに辞書やネットなどを活用して知識を広げていく必要があるわけですが、その際に本書で意識した、どういったレベルのカタマリまで「よくある言い回し」と言えるのかの感覚が今後の英語学習にもヒューリスティックに活かせる作りとなっています。やり込み要素の多いオープンワールドのゲームのようなものを想像すると良いでしょうか。
こう書いてくると敷居の高い参考書と思われるかもしれません。実際、先日、高校2年生で偏差値60ちょっとの学生に別冊問題集Day1を本書の指示通り選択肢なしで解いてもらったところ、002のbe rich in Xのinしか入れられなくて、これはムズすぎます!また解説も詳しすぎて逆にどこをおぼえれば良いかわかりません!という風に言われたんですね。。
そこで初学者向けに情報を絞った使い方もできるようになっていることを伝えることが大事かもしれません。先にあげた薄い別冊問題集の左側に課題文300個、右側にネクステ風の4択選択肢、または並び替え問題が載っているので、これを最初から見てしまい普通の文法問題集のように解くのが一つ。また問題を解く形ではなくいきなり本冊の完成した課題文300個をDUOのような暗唱例文として活用する。これらだけでも相当に力がつく教材なのは間違いないでしょう。
その際に版元アルクの音声アプリboocoを活用すればリスニング力も強化できます。読み上げはナチュラルスピードだし、複数のスピーカーの中にはイギリス英語の方もいて、can'tをキャントでなくカーント、tomatoをトメイトウではなくトマートウと発音されたりしていて、聴いていて飽きません。
ただ先日のこちらのつぶやきでも言ったように、「課題文」だけを聴く機能があればより便利だろうなあとは思いましたが。。
なお、本書には特典PDFがあって、紙幅の関係で省かれている各課題文の構文解説や文法的な補足が載っているのですが、それはこのアプリboocoの「書籍情報」から見ることができます。ほんとに凄まじい情報量。。
◎まとめ
というわけで、こんな情報量の多い高品質のフレーズ集なのだから、早慶レベルを目指す、英語でアドバンテージを取りたい学生なら、まず文句なし、一刻も早くこの本でフレーズ学習を開始すべきと強くお勧めします!本書をやるかやらないかで明確な差がでるレベルなので事は急を要します。また自力・他力でこの本に目がとまった幸運な学生または社会人なら現状の英語力を問わず(高校基礎文法・基礎英文解釈が終わっているくらいは必要ですが)、まずは上で述べた簡易な取り組みからでもスタートしてみると必ず大きな学びがあると思います。そこでは一つ一つのフレーズの知識に加え、英文を見る目の涵養というその後の英語学習への貴重な視座も得られることでしょう。率直に言って、これを学生の内に手にできる君たちが羨ましいぞ!
【おまけ】
初版本のためいくつか誤植が見つかっているので、著者の山崎先生による以下のまとめを必ずチェックして取り組む前に直しておきましょう。
最後に、私が本書に持つ数少ない不満点が、「はじめに」の中にあるので慎んで言及しておきます。
ここはたとえ日本語でも、「よくある言い回し」にこだわる本書なら、「おぼろげながら浮かんできたんです。highlyという単語が」(進次郎構文)の語順でなければ!
【2024/09/10/追記】
Kindle版の使い方について山崎先生が解説されています!
【2024/09/14/追記】
著者の山崎先生が一ノ瀬安先生のYouTubeに出演されているので必見です!