「魔法使いの弟子」の喩え ━ユヴァル・ノア・ハラリの新刊"Nexus"より
以前から注目していた『サピエンス全史』でお馴染みユヴァル・ノア・ハラリの待望の新刊"Nexus"が2024/09/10に刊行されました!
今回のテーマは石器時代から現代のAIに至るまでの情報ネットワークの歴史。この闇雲なスケールの大きさがハラリ本、無二の魅力ですね!
私もさっそくKindleで買って読みはじめているのですが、もう出だしから面白い。しかも、いつものように英語もとっても読みやすい。テーマに興味があれば、英語多読本としてもおすすめです!
このnoteでは、「プロローグ」の中で私の好きな"The Sorcerer's Apprentice"「魔法使いの弟子」が言及されていたので、この作品そのものとそれがどのような文脈で出てきたかを少し紹介してみたいと思います。
本書では産業革命黎明期のゲーテの詩(1797)としてまず言及されています。魔法使いが弟子に工房の留守番と水汲みの雑用を頼んで出かけるが、怠惰な弟子は箒に魔法をかけてその仕事を代わりにやらせようとする。しかし弟子は魔法の止め方が分からず大変なことになる......といった内容。
ただこの作品が有名なのはハラリも言及している通りミッキーマウスが魔法使いの弟子を演じるディズニー映画版があるから。ちなみにこの魔法使いの名前はYen Sidと言い、Disneyを逆から綴った言葉遊び。
これは『ファンタジア』(1940)というクラシック音楽とアニメーションを融合させた共感覚的アート作品8エピソードの内の1つ。オーケストラの指揮者はレオポルド・ストコフスキー。「魔法使いの弟子」以外のパートも最高に面白いので、機会があれば一度お試しを!
『ファンタジア2000』という続編もあって、そちらとセットのBlu-ray版もあります。
さて、本書に戻って、なぜこの作品が言及されたのかというと、
ということで、最新のAIなどに代表される人間のコントロールを越える可能性のある力へ警告を与えるものとして「パエトンの神話」と並べて取り上げられたわけでした。
もっとも本書では、この物語が、では私たちはどうすべきか?に答えてはくれないし、なんなら解決が神や魔法使い頼みになる部分への懸念、そして人間が強大な力を得る源泉への考察へと展開していくわけですが、話の導入としてこういうポップカルチャーへの巧みな言及はいかにもハラリ節という感じですね。
個人的には、例えば、"21 Lessons for the 21st Century"での『インサイド・ヘッド』"Inside Out"の取り上げ方、切り口など印象に残っています。あれは自由意志と生化学反応の物語である、と。
"Nexus"はまだ読み始めたばかりですが、515頁という『サピエンス全史』と匹敵するくらいの大部の本なのでじっくり楽しみたいと思います!