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【ブックレビュー】『日本人の英語』マーク・ピーターセン ━━語学エッセイの古典を今読む意義

先日、ブックオフで入手した2冊の内の1冊、マー・ピーターセン著『日本人の英語』を読み終えました。

初版1988年(昭和63年)の古典的な著作ということで、用例にはスマホも出なけりゃ最新AIも存在せず、なんならワープロ(word processor)が最新機器として登場してくるくらいなのですが、2024年の今読んでも、大いに学びのある面白い英語読み物となっています。著者のマーク・ピーターセン先生はロイヤル英文法シリーズの共著者としてもお馴染み。

元は1986-1987にかけて『科学』という雑誌に連載されていたものということもあり、内容は理系のアカデミック・ライティングに関するものがベースとなっています。が、そこにとどまらず、一般英語学習者にも役立つ、冠詞、前置詞、可算・不可算、イディオム、時制と相、能動態と受動態、接続詞(接続副詞)など日本人にとって難しい項目を、豊富な実例と共に解説してくれているので読み応えがあります。ここで俎上にのっている文法項目の多くは今でも形を変えて熱く議論されているものも多く、個人的にも、あ、例の話の出どころはこの本だったんだ!という発見がいくつもありました。

例えば、特に印象的なのはaとかtheといった冠詞と可算・不可算名詞に関する一連の章。普通日本ではbookなりchickenといった「名詞にaやtheをつける」と説明されますよね。ところが本書によると、これは逆だと。

英語で話すとき━━ものを書くときも、考えるときも━━先行して意味的カテゴリーを決めるのは名詞でなく、aの有無である。そのカテゴリーに適切な名詞が選ばれるのはその次である。もし「つける」で表現すれば、「aに名詞をつける」としかいいようがない。「名詞にaをつける」という考え方は、実際には英語の世界には存在しないからである。

p.12

theはaと同じく、名詞につく単なるアクセサリーのようなものではなく、意味的カテゴリーを決め、その有無が英語の論理の根幹をなすものである。

p.22

このaやtheを先に言って、その後ろに名詞をくっつけていく感覚は今だと修飾関係を右向き矢印→のみで説明する大西泰斗先生を彷彿としますね。

説明の体系性や網羅性を考えると日本式の英文法も優秀だとは思うのですが、実用的にはこの前から前から英語を捕えていく感覚は意識しておいて損はないですね。この冠詞と名詞に関するところだけでも実例も含めとても勉強になります。

その他の話題も、受動態使いすぎ問題とか主語と述語の距離感とか今でも日本人英語の課題としてよく取り上げられるものばかり。

できるだけ日本語を介さず「英語の頭脳環境」に身を置くことの効能を解くくだりなどは、今なら「英語脳」だとか「イマージョン」として喧伝されていることと似ていますね。

それら現代につながる英語観のいくつかの源流を辿りつつ、昭和後期特有の薫りも感じられる語学エッセイを堪能し、ちょっと贅沢な読書体験となりました。続編も読んでみようかな!

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