【参考書レビュー】『英文解釈のテオリア 英文法で迫る英文読解入門』倉林秀男
近年は理系(主に医学部)志望の学生を教えることが多く、たまには根っからの文系、理系科目ができないからではなく、文系科目が大好きだから文系を積極的に選んだ生徒とじっくり英語を楽しみながら学びたいなあなどと思うことも。
そんな英語好きに強くおすすめできる本格派のための英文読解入門が本書。著者は『ヘミングウェイで学ぶ英文法』で英文法-英文解釈の重要性と楽しさを世に再認識させた倉林秀男先生。
本書の最大の特長は再録例文の多彩さと質の高さだろう。劈頭を飾るのはオスカー・ワイルドの『幸福な王子』。ジョージ・オーウェル、ルイス・キャロル、ダニエル・デフォーといった名作家から、ニュース、講演、SNS、通販サイトの返品ポリシー、そしてもちろん受験参考書らしく各大学の入試問題まで含まれていて、様々な活きた英語の諸相に触れられる。もちろん各課題文には音声付きだし、先に挙げた作家たちへの「読書案内」とか今後の学習への指針となる「英語学習のTIPS」も充実していて、この本を読み終えた後にほの見える言語の大海への水先案内の役割も果たしてくれる。
レベル感としては、高校生にはかなり難しい文章も含まれてはいるけども、解説はとても丁寧なので、進学校の公立高校1年生が総合英語対応の文法書を一冊やり終えたくらいから十分取り組めると思う。逆に言うと、そのくらいの前提知識はないとハードルが高いと感じるかもしれないけれど。
タイトルの「テオリア」はギリシア語の「眺める」から来ていて、哲学では「観想する」という意味でも使われる。英語のtheoryも同語源。映画好きの私としては、おそらくこれも同語源の『テオレマ』なんかも想起した。
とかく実用性、速効性、即効性ばかりが求められがちな学習参考書にあって、じっくり腰を据えて英語に打ち込みたい本格派の学生には(本当は文系・理系関係なく)心からおすすめできます。'Slow and steady wins the race!'「ゆっくり着実なのがレースに勝つ→急がば回れ」。同好の大学生・社会人のやり直し英語にも最適。
TO THE HAPPY FEW!