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『日蝕』(平野啓一郎著)の英訳本が出版されるらしい。あの文体がどう訳されるのだろう!?

小説家平野啓一郎の1998年のデビュー作『日蝕』が英訳されて2024/11/12に発売されるとのことです。

英題は"Eclipse"で、これ自体だと日蝕・月蝕どちらの可能性もあって、特に区別する場合には、a solar (lunar) eclipseまたは、an eclipse of the sun(moon)としますが、ここはあえてシンプルに"Eclipse"にしたということでしょうか。そういえば以前、平野さんはX(twitter)で『月蝕』で直木賞を受賞したと間違われることがあるとつぶやかれていました(笑)

日蝕』は、漢語を多用した独特の硬質な文体と神秘主義・審美主義的作風が話題となり、芥川賞最年少受賞、単行本も40万部売れるベストセラーとなりました。

同世代ということもあり、当時は衝撃を受けたものです。23歳で京大法学部在学。三島由紀夫の再来!? 確か茶髪にピアスということもなぜか話題となっていましたが(笑)、今となっては隔世の感がありますね。作風も大きく変わりましたし。近作の『マチネの終わりに』や『ある男』も英訳本が出ているのでそちらも読んでみたいと思っています。

さて、そんな『日蝕』ですが、冒頭の段落からこのような文章となっており、

 これより私は、或る個人的な回想を録そうと思っている。これは或いは告白と云っても好い。そして、告白であるが上は、私は基督者として断じて偽らず、唯真実のみを語ると云うことを始めに神の御名に於て誓って置きたい。誓いを此処に明にすることには二つの意義が有る。一つは、これを読む者に対するそれである。人はこの頗る異常な書に対して、径ちに疑を挿むであろう。私はこれを咎めない。如何に好意的に読んでみたとて、この書は所詮、信を置く能わざる類のものだからである。多言を費して無理にも信ぜしめむとすれば、人は仍その疑を深めゆく許りであろう。然るが故に、私は唯、神に真実を誓うと云う一言を添えて置くのである。今一つは、私自身に対するそれである。筆を行るほどに、私は自らの実験したる所に耐えずして、これを偽って叙さむとするやも知れない。或いは、未だ心中に蔵匿せられたること多にして、中途で筆を擱かむとするやも知れない。これは猶偽りを述べむとするに変わる所が無い。これらを虞れるが故に、私は誓いを敢えて筆に上し、以て己を戒めむとするのである。  

—『日蝕・一月物語(新潮文庫)』平野 啓一郎著

もしも森鴎外が史伝の文体で『痴人の愛』の冒頭を書いたなら、とでも形容したくなる、大時代にして妙に理屈っぽさの角もある独自の文体がはたしてどのように英訳されたのか、興味津々です!

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