『マッドマックス 怒りのデス・ロード』における'mediocre'解釈に関する私見
ジョージ・ミラー監督の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)はこだわりの映像表現だけでなく言語面においても異彩を放つ作品だと思う。
ここで私が取り上げたいのは作中で印象的に使われる'mediocre'という「平凡な、月並みの、二流の」を意味する形容詞。ネイティヴや日本のファンの間でもこの語の本作におけるニュアンスにはさまざまな解釈がなされている。
デス・ロードでこの語は2箇所使われていて、最初は、ウォーボーイの1人が自爆特攻を成し遂げた後で、周りが囃したてるmediore。
日本語字幕では文脈を考慮してか「よく死んだ」と訳している。しかしこれを「達成」と思っているのに、なぜあえてmediocreというネガティヴな語を使うのか?
それはボスでありこの世界の支配者であるイモータル・ジョーの愛用語だからなのであろう。
使用2箇所目の上のシーンは、自ら勇んでウォーリグに突っ込んでいった部下のニュークスがあっさりしくじった後のイモータル・ジョーのセリフで、日本語字幕は同じmediocreを「間抜けが!」と訳し分けている。
しかしこのポジティヴ・ネガティヴ双方の局面でまったく同じ単語が使われているのは興味深い。
ここからが私見なのですが、これは日本語における「普通に」の現代的用法に近いものなのではないだろうか?
この現代日本語も賛否はあるが俗語的に「普通に美味しい」「普通にダメでしょ」などとプラスにもマイナスにも使われている。
ニュアンスとしては、その現象が想定を超えるほどではないけれども、それでも真っ当に良かったり悪かったりする時の形容に使われる感じかと。
これには、その現象が想定を越えない、お見通しなのだ、といった立ち位置をとりたがる語り手の保身が背景にあるとも思われる。ライブドア騒動の頃のホリエモンがしきりと「想定内」という語を愛用していたことが思い出される。
なのでこの映画における前者のmediocreは「普通(にスゲー)」であり、後者のそれは「普通(にカス)」というニュアンスなのではと。イモータン・ジョーは無意識におのれの小心なる保身を秘匿する虚勢でmediocreという語を愛用し、部下たちはそれを表面的に真似している、そういった関係性をここでは表現しているのではないだろうか?