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【不定詞の否定】not to or to not ?━カマラ・ハリス候補のスピーチと声明より
「不定詞の否定」に関しては、受験英語ではまずnot to 〜の形が正しいとして指導されることがほとんどです。つまり、
He decided not to attend the meeting.
(彼はその会議には出席しないことに決めた。)
この形が正しくて、
❌He decided to not attend the meeting.
は間違いであると。並び替え文法問題なら❌になってしまうでしょうね。
ところが現実にはto not 〜の形もわりと見かけることがあり、例えば、"English Journal"の以下のweb記事ではこうまとめられています。
・to不定詞の否定はnot to doとするのが一般的
・くだけた文体ではto not doとすることも可能
他の解説書を見ても、例えば、佐藤誠司先生の『SKYWARD 総合英語』では、
I've decided to not apply to the college.のように、notをtoの後ろに置く形が使われることもあるが、作文では避けること。
という説明がされています。
また手元の物書堂の辞書『Wisdom』では、

といった記述が見られます。
総じて、not to 〜がフォーマルであり、to not 〜の方はインフォーマルなくだけた形というのが共通見解と言えそうです。
ところが、先日、アメリカ民主党の大統領候補として名乗りをあげたカマラ・ハリスさんの声明を読んでいると、このような不定詞の使い方が見られました。
I believe in a future that strengthes our democracy, protects reproductive freedom and ensures every person has the opportunities to not just get by, but to get ahead.
(私は、民主主義を強化し、リプロダクティブ・フリーダムを守り、すべての人が単に生きていくだけでなく、前に進んでいける機会を得られる、そんな未来を信じています。)
このようにto not just get byというインフォーマルとされる形が公式の声明(statement)で使われているんですね。justも間に入って「分離不定詞」にもなっています。
ところが、さらに興味深いことに、ほぼ同じ内容をハリス候補が演説している映像もあるのですが、
なんとこちらのスピーチでは、
We believe in a future where every person has the opportunity not just to get by, but to get ahead.
という風に、not just to get byというむしろフォーマルな形が使われています!
ここではフォーマルとインフォーマルの関係が逆になっていますね!このあたりは現在揺れている文法事項なのかもしれません。
またここから、カマラ・ハリス候補はおそらく文字原稿を単に読み上げているのではなく、自分の言葉に置き換えてしゃべろうとしているようにも思えて、その点でも興味深く感じたので、このnoteで紹介しました。
【おまけ】
『英語のハノン』という発売以来私の愛用している教材があるのですが、特徴の一つとして音声が非常に丁寧に作りこまれているという点があります。
そんなハノンなのですが、それでも何箇所か音声間違いが見つかっていて、以下のような形で公式にまとめられています。ここまで丁寧にアフターケアされている教材はなかなかないと思います。
そのうちのUnit13.7がまさにこのnoteで取り上げているテーマに関するもので、テキストではnot to workとなっているところをネイティヴがto not workと読み上げてしまっていたという箇所があったのです。おそらくネイティヴの語感的にはどちらでもそこまで違和感がないということなんでしょうね。