手は離しても手を増やす
自分が就労支援をしていて常々意識していることなんですが、利用者さんが就労して社会に出てしまうと僕らは直接的に支援をすることが段々と難しくなっていきます。
常に否が応でも物理的には手が離れていくことを想定しながら支援をしなければいけません。
もちろんこれは就労支援に限った話ではないんですが、自分達の直接支援の持ち分、というのはどこかで期限を迎える、という事があることはどの分野においてもおそらくあるんじゃないかと思うんです。
たまたま今僕がいる就労支援、という分野は自分達の直接支援の期限を迎えたときに次に受け渡す舞台は福祉的支援の場所ではなく「社会」というステージです。
イメージ的な話ですが、社会というステージは必ずしも「支援」ではなく「実践」の舞台で、僕ら支援者は直接支援はほとんど行えなくなり、その分本人が踏ん張らなきゃいけない比率がぐんと上がってきます。
もちろんある程度の準備性が整い、本人が踏ん張らなきゃいけない比率分が見越せる、もしくは間接的な支援を得ながらやっているだろうことが見積もれて初めて送り出すわけなんですが、そうなれば当たり前に手としては離れていきます。
それ自体は全然いいことだと思うんですが、反面、社会という舞台で生きていこうと思うと仕事だけしていれば万事上手くいくわけじゃないしそれ以外にも社会生活上のいろんな場面にも立ち会うようになるわけです。
でも働けていて収入があって、今たちまち生活が行えていける状態であれば「自立」という方に判断されます。
そして支援の手はどんどん離れていきます。
もちろんそれである程度やっていける人はいいと思います。でも、もちろんそんな人ばかりではなく、社会生活の中でさまざまな困りごとが生まれるリスクって当然高いので、それが積もり上がった時にドロップアウトしてしまうこともあったりするわけです。
今自分の仕事や、オンラインコミュニティの活動などの中で、就労定着支援だけでなく、住居支援や婚活支援、微妙に性に関わる問題などにも関わらせてもらっていますが、社会生活を送る中でいわゆる自立した生活に舵を切れば切る程、本人達が人生を前に進める上での障害物がたくさん現れます。
当然それを目の当たりにしながら、「じゃあ福祉サービスという中で改めてやらないといけない支援はなんなのか」とか、「そもそもの生育過程の中で押さえておかないといけないことはなんなのか」みたいなことも考えさせられるんですが、圧倒的に感じるのは当事者の方が就労などを通じて社会に出たその先に、直接的な支援の手は確かに離れるけれど、どれだけ間接的に支えられる手を増やしていくか、という事に目を向けてその資源を生み出していくことが大事なんじゃないか、ということです。
当事者の方の立場になった時に、「就労しました、定着もしていますね、はいじゃあ自立されましたね、福祉サービスは卒業ですね。」ってただ梯子を外されたような感覚にはならないんだろうか、と思ったりします。
多分社会の中で生活をしていく上で漠然とした不安はあって、それが日々を送っていくうちにひとつ、またひとつ具現化していって「これはどうしたらいいんだろう?」が積もっていったとしたら、それはどこで解決させたらいいんだろうか、どこに相談したらいいんだろうか、ってなりませんか?
ということをどうしても考えてしまうんです。
もちろん公的な機関も含め社会生活を送る上で間接的な支援を受けられたり相談したりする場所が皆無なわけじゃありません。
だけど多分足りてはいないだろうし、煩雑な社会生活の課題や問題をこなしていくためには、公的なものだけじゃなくインフォーマルなものも含めてもう少し手を増やしていかなきゃ、せっかく自立しかけているのにその芽を結果的に摘んでしまうことにもなりかねません。
一応就労支援、という社会と福祉の一番の接点のあたりにいる者として、ただ就労のために送り出すことだけで役目を終えるんじゃなくて、その先を見なきゃいけないような気がずっとしています。
個人的な理想かもしれませんが、本人にとって少しずつ支援の手が離れていくこと、つまり福祉が必要なくなっていくこと自体は悪いことじゃないんだと思います。
でも、手が離れたことがそっくりそのまま社会生活を送る上でのリスクに直結してしまうんじゃ、それこそ手を離す意味がなくなってしまいます。
手は離れていくけれど、困った時にいつでもサポートができるような「手」を社会の中に増やしていくことって、ある意味福祉側の一つの課題なんだろうな、と思います。
いつかは手を離していかないといけないのが自立支援のひとつの宿命だと思うんですが、だからこそ手の離し方、みたいなものに目を向けることが必要ですね。
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