コロナ禍でソーシャルワーカーができることを考える


自分や大切な人たちの生活を守ることに精一杯だったこと。
日々明らかになるさまざまな事実に対して、自分にできないことばかりに目が行き罪悪感や葛藤を感じていたこと。
今の生活様式に、実は、少しホッとしていること。
でも、何かしなければ、と急き立てられたような気持ちになったこと。
掻き立てられるように動き、少し疲れたこと。

わたしは、3月の下旬から、そんなことが顔を出しては引っ込む時間を行き来して過ごしました。

少し落ち着いて、今考えてることを共有させてもらいたいと思い、文章を書きました。私個人の「したい」という意思や「べき」論が多分に含まれる文章です。

新型コロナウイルス感染症によって、既存の社会システムが有する矛盾が、より顕在化するであろうこれから先の未来を見据えて、できることを考えてみたいと思います。

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ソーシャルワーカーが有する制約

今日出会った/過去に出会った/未来に出会うかもしれない人たちは、その時代の社会構造上の問題から生じる痛みを、いち早く引き受け、わたしたちの目の前に現れた人であると定義づけたとしたら、ソーシャルワーカーは社会において、どのように振る舞うべきなのでしょうか。

上記問いへの私なりの答えは、
クライアントと共に扱わせてもらう個人の問題を、自己責任という言葉や、矮小化された自己決定の結果などという言葉の元に処理するのではなく、社会の方に押し戻し、個人の問題を社会化していくことが必要であり、それが、わたしたちの職責である、というものです。

ですが、わたしたちソーシャルワーカーの多くは、組織に雇用される者として、所属機関の役割や業務範疇を超えた実践を行うことが難しいという制約を有しています。そのことが、ソーシャルワーカーに「社会構造上の問題」を実践対象化することを難しくさせているということは、さまざまな研究者の方たちが指摘するところです。

この指摘が明らかにするのは、ソーシャルワーク実践は構造的に一部の力を奪われているということ、私たちもまた抑圧された専門職である、ということです。私たちが出会うクライアントだけではなく、私たち自身もまた抑圧されていることに目を向けていかなければ、クライアントと連帯して実践を行なっていくことは難しいように思います。

繰り返しになりますが、日本のソーシャルワーカーの多くは,援助活動主体として,社会福祉関連機関に雇用され、福祉サービスを配給(delivery)する役割を担っている.ゆえに、所属機関の役割や業務範疇を超えた実践を行うことが難しいという制約を有しています。

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また、法的な包摂にはタイムラグがあり、法律に基づいた社会福祉機関におけるソーシャルワーカーは、ある意味、条件付きの包摂を担いながら、システムが有する排除性に加担せざるを得ないジレンマを抱えた専門職であると言えます.

ですが、上記の制約や困難に対して、「仕方ないことだ」と、結論づける以外にも、できることはあるはずです。

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コロナ禍でソーシャルワーカーができることを考える

2020年5月9日に以下のオンラインイベントを行いました。

上記において、表明した持論をこちらでも記させていただきます。

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自身のワーカーシステムの分散化 

雇用されている機関において為すことが難しい実践がある(クライアントのニーズからはじめることができない)とき、雇用されている機関を辞して、出会ってきたクライアントの方たちの声から、今までにない仕組みを生み出して、継続できるまでつくりあげていくことはとても骨が折れることです。

雇用されている機関において為すことが難しい実践があるとき、乗り換え可能な乗り物を複数持ち、必要に応じて乗り物を乗り換えて実践を展開することはできないでしょうか?

この問いに対して、私たち(Social Change Agency)は、さまざまな制約や困難を有していることを前提としながらも、ソーシャルワーカーが、「社会構造上の問題」を実践対象とした、個人の問題を社会化する実践を行うためには、複数の乗り物(組織)という選択肢が必要ではないか、という実践上の仮説をもって活動を行なっています。

例えば...、雇用されている機関、関係機関同士のネットワーク体、地域のさまざまな団体、任意団体、当事者団体、職能団体や課題意識を共にする仲間と一般社団法人などを立ち上げる/既にある団体など。

複数の実践上の乗りものをもつこと=自身のワーカーシステムを分散化することによって、複数の回路をもち、各組織のあいだを、架橋しながら、ミクロからマクロへの実践の展開を駆動する要素になることができるかもしれない。そんなことを思います。

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アセスメント-ミクロからマクロに実践を展開するために-

分散化されたワーカーシステムを有するという前提に立ったとき、その上で、社会構造/システムを実践対象化するためには、さまざまな社会システムが排除性を内包しているという前提に立ち、その上で、システムが有する矛盾(システムの目的と対立している何か)の発見と、その矛盾を成り立たせている構造への理解が必要であると考えます。

わたしが、社会保障制度における申請主義によって生じる課題を実践対象化すべきと考えるのは、社会保障制度が生存権保障を目的としたセーフティネットとして存在するにもかかわらず、その活用を必要としている状況にある人にとって、申請という行為が、これ以上ない障壁となって立ちはだかるからです。


新型コロナウイルス感染症の出現によって、既存の社会システムが有する矛盾がより顕在化されていくこれからの未来こそ、社会構造上の問題によって生じる痛みを引き受け、私たちの目の前に現れるクライアントの過去を共有させてもらうことを通して、ともに、矛盾を発見し、言語化すること。「代弁者」、「課題提起者」としての役割が、より一層ソーシャルワークに求められるのだと思います。

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プランニングにおけるアクションシステムの組成

提起した課題は一組織で解くことに固執せず、多くの主体に、その課題を自分の課題として取り扱ってもらえるよう働きかけができること、みなで育てることができる座組みを組めること、合流すべき課題との関連に気付けること、合流していくことができる柔らかさを持てること、ときに、闘うことを選択肢としてもてることが、プランニングにおけるアクションシステムの組成において大切であると考えます。

社会に存在するさまざまな主体を、社会資源として見立てることで、様々な主体をソーシャルワーク実践の展開に加わってもらうことが可能になると考えます。それゆえ、システムが有する矛盾(システムの目的と対立している何か)の発見をなすためのアセスメントと同様に、アクションシステムの組成においても、社会に存在するさまざまな主体に対するアセスメントが重要であると考えます。

新型コロナウイルス感染症によってオフラインの支援が制約を受ける中で、オンラインをどう支援システムの中心に組み入れていくか(ソーシャールワークのデジタルトランスフォーメーション)ということもまた、全てのソーシャルワーカーたちが考え、知見を共有しあっていかなければならないことであると考えたとき、テクノロジーを扱う職業や企業を、ソーシャルワーク実践課程におけるアクションシステムの中に、主体的に関与してもらうために働きかけていくことも、待った無し、の状況にあると言えます。

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システムを変える役割

この1ヶ月で、既にあった制度/新設された制度の対象要件の拡大や運用の変更などがありました。そのプロセスには、NPOなどの支援団体、当事者団体、ソーシャルワーカーの関与もありました。 

社会保障制度を運用する(正確にはデリバリーする)プロセスにいることの多い私達ソーシャルワーカーが、より良いものにしていくために変化させたり、チューニングしたりすることができるはずです。

新型コロナウイルスの出現前から矛盾に感じていたけれど、頑として動かすことが難しかったものはなんだったでしょうか?

様々なシステムが変更を迫られていくこれからの未来は、ソーシャルワーカーが、日々出会うクライアントとの関わりの中で、矛盾に感じていたものを変え、動かす機会にもなるのではないかと思います。

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150の意見をもとにこれから行うこと

5/9のイベント終了後に、以下の問いに対して、150以上の意見や提案アイデアをいただき、それらをまとめ、5/16に2回目のイベントを行いました。

ソーシャルワーカーが集まる場として、今、どんな「場」がほしいですか?

ソーシャルワーカーが連帯する方法(安全に話せる場をつくったり、ソーシャルアクションを起こしていくための場づくり)について具体的なアイデアや方法論があればきかせてください。


新型コロナウイルス感染症は、既存の社会システムが有する矛盾を、あぶり出し、より顕在化させるでしょう。

連帯して知恵を出し合い、「社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する」ために、何ができるでしょうか。

150の意見を踏まえて、まずはじめに、以下ソーシャルワーカーがオンラインで集う試行的な取り組みを開始する予定です。

目的
・7つの機能(安心安全/セルフケア、情報共有、課題/意見共有、知見共有、研鑽、交流・連帯、他業種・他職種連携)を備え
・3つの資源(人、情報、お金)が集う
・ソーシャルアクションを後方支援する場

場所の制約を排し、ソーシャルワーカーたちが連帯することで、何ができるのか?

この問いを探求するために、よろしければ、ぜひ、力を貸していただけると幸いです。


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Hokuto Yokoyama
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