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【詩】無・じゅう・りょく30 

死体はきれいです
でも
「死体」と名付けるかどうかまだ自信が無いのです
「肢体」だとこれから蘇って火照って
甘い蜜月の時間が始まる予感がするし
「亡骸」だと第三者的な気分だし
「遺骸」だと小さくなって
宇宙の反対側に吸い寄せられてゆく気がするし
「遺体」だと検視されて痛い気がするし
一体何と呼べば良いのか
教えてくれませんか

花とハイヒールとオストリッチのバッグとカーブした物差しと
針山と
生涯作り続けたドレスの写真集のそばで
自分で縫った一番お気に入りの服を着て
黒真珠のネックレスを付け
静かに閉じた目で
白髪と
滑らかな顔がきわだたせる
ピンクのルージュを塗った口が微笑んで
色とりどりの香りの花に囲まれたその姿を
永遠の記憶の中で
棺という新しい世界に浮かぶ船に寝ているあなたを
一体 何と呼べば良いのでしょうか

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