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ストーリー作り|学びの記録.06 読者の心を動かす具体性と物語性

概念的、抽象的、一般的な物事を扱う際、それを具体的なものにしなければなりません。それが、読者を引き込む鍵となります。人は視覚的なイメージに強く感情を動かされるため、物語が感動を与えるには、まずテーマを視覚化し、感覚的に「見える」形に落とし込むことが必要です。

視覚化するためには、個別のシーンや出来事に置き換えて具体的にすることで、読者は物語に込められたメッセージを感情的に体感できます。

今回は、物語の力であり、共感や想像を引き出す重要な技術である「視覚化」を学びました。


視覚化で読者の心を動かす

物語を通じて何かを伝えるとき、ただ事実を並べるだけでは人の心には届きません。特に、大規模で恐ろしい出来事であっても、一般的な説明にとどまると、多くの読者は感情的に深く関わることなく、ただの情報として流してしまうのです。

2006年10月、ハリケーンによる洪水で6,000人が亡くなった

この文章を読んで何を感じましたか?確かにこの数字には悲劇的な重みがありますが、それを目にしたときに、多くの人は「大変な出来事だったんだな」と一瞬思いはするものの、それほど強い感情的反応は湧かないのではないでしょうか。数千人という膨大な犠牲者が出たとしても、その事実が「個人的な体験」として感じられない限り、意識の中でその重さが薄れがちです。

では、次の文章はどうでしょうか?

洪水が押し寄せる中で、半狂乱になって母親に必死にしがみついている幼い少年。母親は息子をなだめようと、こうささやいている。
「心配ないわ、私はここよ、絶対に放さないから」。
一瞬の静寂と安心したような表情を浮かべる少年、次の瞬間には大波がやってきて、息子を母の腕から奪い取る。破壊の不協和音、なぎ倒される木々、こっぱみじんになる家の数々、そのなかで響く子どもの叫びは、残りの人生にわたって母親を苦しめるだろう。その叫び、そして水にさらわれる息子の驚愕の表情。
「信じてたのに」と言いたげな顔。
「なのに僕を放すなんて」

このような具体的な描写なら、多くの人は胸が締め付けられるような感情を抱き、悲しみや絶望感を共有したくなります。このように、具体的で視覚化できる描写は、読者の心に直接訴えかける力を持っています。これは、感情が先行し、その後に思考が追いつくという人間の本能的な反応を利用したものです。

個人的な物語が感情を動かす

「感じてから、考える」という順序は、物語の力を最大限に引き出す秘訣です。人間の脳は、抽象的で一般的な事柄よりも、特定の個人に焦点を当てた具体的な状況に強く反応します。物語が特定の個人の経験に基づいていると、読者はそれを自分事のように感じ、共感や感情的なつながりが生まれます。このように具体的な事象を通じて一般的なテーマを表現することで、物語は多くの人にとって「心に響く」ものとなるのです。

作家が読者に考えを促す方法として、「考えてほしい」と直接的に頼むのではなく、まず「感じさせる」ことが効果的です。感情が動かされることで、読者は自然と「なぜだろう?」と考えざるを得なくなります。これは物語の「魔術」ともいえ、共感や好奇心を通じて、無意識にテーマやメッセージに向き合う仕組みが働くのです。

物語が心に届き、考えさせるためには、特定の出来事やキャラクターを通じて「感じさせる」ことが必要です。感覚的な反応を引き出すことで、読者はそのテーマについて深く考え、影響を受けるようになります。このように、具体的な物語で感情に訴え、さらに思考を促すことで、読者は物語に引き込まれていくのです。

具体的な描写が物語に与える力

物語を魅力的にするためには、一般性を避け、読者の心に響く具体性を意識して描写することが重要です。一般的な表現は抽象的で、特定のイメージが湧きにくいため、読者が物語に感情移入しづらくなります。

例えば「ティムは楽しい時間を過ごした」と表現するだけでは、何が楽しかったのか、どんな体験をしているのかが曖昧で、感情が湧きにくいのです。

逆に、具体的に「ティムは友人と焚き火を囲んで語り合い、笑い声が夜の静けさに溶け込んでいった。夜が更け、星が淡く瞬く頃、湖のほとりに移動し、湖面に映る月を眺めながら、眠気にまどろみながらも話は尽きなかった。そして空がほのかに明るみを帯びはじめ、やがて太陽がゆっくりと水面を染め上げる瞬間、彼は言葉を失い、友人とただ黙って夜明けを迎えた。」と描けば、ティムが楽しんだ時間のイメージが読者に伝わりやすくなります。

一般性は「ドーパミン」という、読者の好奇心を駆り立てるホルモンの放出を妨げてしまいます。物語が進むにつれ、次に何が起こるのかを期待させ、読み進める原動力となるのは、このドーパミンの効果が大きいのです。しかし、抽象的な表現が続くと、先を知りたいという読者の意欲は薄れ、物語がもたらす体験は表面的なものに留まります。

では、次の2つの文章を比較してみましょう。

ジェーンはビリーが恐ろしい人間だと聞いていたので、ビリーがみんなの前でジェーンの容姿についてコメントしたときも、反論するのを控えた。

この文章では、ビリーがどんな「恐ろしい人間」かがわかりません。また、「みんな」の前でコメントしたことに対して、みんなはどんな反応を示したのでしょうか?それは、「みんな」が誰であるか次第で変わってきます。仮に「みんな」の正体が明確になったとしても、ビリーが発したコメントの内容がわからなければ、その場の反応を推測するのは難しいのです。

ジェーンは、ビリーが瓶の中に生きた昆虫を入れて苦しむ様子をじっと観察し、その「実験結果」を得意げに披露するのが好きなやつだと知っていた。そのため、中学校のクラスメートの前でビリーに「肌が黒すぎる」と馬鹿にされても、わざわざ彼の挑発に乗って反論するのはやめておいた。

後者の具体的な描写は、ビリーとジェーンの関係性やビリーの奇抜さを視覚的に伝え、読者により強いインパクトを与えます。このように、物語の中で何が「具体的に」起きているかを明確に描写することで、読者が自分自身の体験のように物語に引き込まれやすくなるのです。

なぜ曖昧な表現が生まれるのか

物語を書く際に、登場人物や出来事について曖昧な表現を使ってしまうことは、実は多くの作家が無意識に陥る落とし穴です。なぜなら、作者は物語を詳細に理解しているため、自分にとっては当然の情報が、読者には伝わりづらくなることがあるからです。主な原因は次の2つです。

原因1
一つは、作者が持つ「物語全体の理解」が、読者にそのまま伝わると誤解してしまうことです。読者には、作者が思い描く詳細な背景や動機が伝わっていないため、物語が何を伝えたいのかが曖昧に感じられることが多々あります。これにより、読者は物語の核心や登場人物の感情が分からなくなり、感情移入や共感が難しくなるのです。

原因2
もう一つの原因は、「読者に多くを伝えすぎてしまうのではないか?」という作者の不安です。具体的な情報を出すことで、意図していないネタバレや物語の核心を明かしてしまうことを恐れ、ぼんやりとした表現にとどめてしまうケースです。しかし、曖昧な表現は、読者が物語の展開やテーマを掴む妨げとなります。読者が求めているのは、登場人物や場面の「確かな手がかり」です。こうした具体性こそが、物語の興味や没入感を生み出す鍵です。

物語を読み手に伝える際には、適切な具体性を意識することが不可欠です。明確な情報をあえて控えるよりも、手がかりとして描写を加え、「何が起きているのか」を理解できるようにしなければ、読者が読み続ける持久力を失ってしまいます。

曖昧さを排除する6ポイント

1.登場人物の行動は理由を明確にする

物語において、登場人物の行動の理由を具体的に描写することは、読者の理解と興味を引き出すために重要です。理由が曖昧だと、読者はキャラクターの意図がわからず、物語から疎外されてしまいます。行動の背景が明確であれば、読者はキャラクターの心情を推測し、物語に引き込まれやすくなります。

エマはするりと路地に入り込み、いつもと同じようにマシューに会わずに済んだことを喜んだ。

この例文では、エマがマシューを避ける理由が明確にされておらず、読者がその行動の背景を理解できないため、エマの心情が伝わりにくくなっています。マシューを避ける理由がわからないため、エマの感情も曖昧に感じられます。

改善案
エマはするりと路地に入り込み、またマシューの気味悪い視線にさらされずに済んだことに安堵した。彼は職場でエマと一緒になった後の2年間、彼女を執拗に追いかけ続けているのだ。

この改善文では、マシューがエマのストーカーであることが明示されているため、エマがマシューを避ける理由が明確になります。これにより、読者はエマの行動に共感し、ストーリーへの没入感が増します。

ポイント
●登場人物の行動には、理由を具体的に描写する。
●読者に行動理由を伝えることで、キャラクターに共感しやすくなる。
●曖昧な行動理由は、読者にとって物語を理解しにくくする原因になる。

2.読者が意味を理解できないメタファーは無意味

メタファーを使用する際には、読者にそれが指し示すものを明確に理解できるようにしてください。メタファー自体が抽象的だと、何を表現しているのかが不明瞭になり、読者が混乱してしまいます。効果的なメタファーは、読者が直感的にその意味を理解でき、さらに物語のテーマやキャラクターの心情を深める役割を果たします。

マシューの奥深くにある何かが弾けようとしていた。縫い目が引っぱられるのを感じた。マシューが思い浮かべたのは、不器用な少年が使い古した、縫い目がすっかり灰色に汚れた野球のボールのようなものだった。しかし一度縫い目が裂けてしまえば、それはほかのものとなってしまうだろう。カバーの中から現れる醜く奇妙なもの、かつては光り輝き、痛ましいほどに希望に満ちていたボール、その内側にあるとは夢にも思わないようなものになってしまうだろう。

この例文では「醜く奇妙なもの」や「マシューの奥深くにある何か」が何を表しているのかが不明瞭で、読者にはそのメタファーの対象が伝わりにくくなっています。結果として、マシューが何を感じているのか、どのような葛藤を抱えているのかがわからないため、メタファーが読者の心に響きません。

改善案
マシューは心の奥で長年押さえ込んできた怒りが、古い傷口を無理やり引き裂くように込み上げてくるのを感じた。彼の中でその怒りは、いつか自分の手に負えなくなる日が来るとわかっていた。破れた縫い目の隙間から顔をのぞかせるその感情は、かつて夢見た希望とは程遠く、もう取り返しのつかない痛みを宿していた。

ポイント
●メタファーを使う際は、それが指す具体的な感情や状況を明確にする。
●抽象的な表現を避け、読者がメタファーの対象を容易に特定できるようにする。
●メタファーが新しい視点や洞察を与えるものであるように工夫する。

3.記憶の具体化で登場人物に説得力を与える

登場人物が過去の記憶を思い出す場面では、その記憶が具体的に何を意味しているのかをはっきりと示す必要があります。抽象的に表現された記憶だと、読者はその出来事の意味や、現在の状況にどう関係するかを理解できません。曖昧な描写は、物語の意図を読者に伝えられないばかりか、想像の余地が広がりすぎて物語から離れてしまう可能性もあります。

その汚くて古いボールをエマに投げたとき、マシューは間違いを犯したことに気づいた。1967年の夏、初心者向けキャンプでやった試合の忘れがたい11回に、マシューが教訓を学んでいれば…。だが、悲しいことに、彼は学んでいなかった。

この例文では、「1967年の試合での教訓」が具体的にどのようなものであったかが示されておらず、読者はマシューが何を学び損ねたのかを推測できません。過去の出来事が具体的でないため、現在の状況においてその教訓がどのように関連しているのかがわからず、読者にとって理解しにくくなっています。

改善案
その汚くて古いボールをエマに投げたとき、マシューは思わず1967年の夏を思い出していた。彼はその頃、キャンプで行われた試合でショートのポジションについていた。
試合は同点のまま延長に入り、マシューのチームは11回の裏、1アウトでランナーが一・三塁の絶体絶命のピンチに立たされていた。バッターが打ち上げたボールが彼の守備範囲に飛んできたとき、マシューは冷静にファーストへ送球すればアウトを取れるはずだったが、「ここでダブルプレーを取れば勝てる!」と焦り、無理にセカンドへボールを送った。しかし送球はそれてしまい、三塁ランナーが一気にホームイン。
試合はそのまま敗北に終わり、チームメイトから落胆の目で見られ、コーチにも「冷静さを失うな」と叱られた。この失敗が今もマシューの胸に重くのしかかっている。

この改善案では、過去の記憶が具体的に描かれており、マシューが「誤った判断」をしてしまった背景が明確になっています。読者はその失敗が現在の場面にどうつながっているのかを理解しやすくなり、マシューの心情にも共感しやすくなります。

ポイント
●曖昧な記憶や教訓は具体的に説明し、読者が理解しやすいようにする。
●過去の経験や教訓が現在の行動にどうつながっているかを描写する。
●登場人物の行動や感情に説得力を持たせるために、背景となる出来事を具体化する。

4.登場人物の心情を明確にして読者を引き込む

登場人物が重大な出来事に直面したときの反応や心情を明確に描写することが、読者にとっての共感や感情移入を深める鍵となります。ただし、単に「反応した」と書くのでは不十分で、その出来事が登場人物にとってどれほど重要なのか、その心情を具体的に描く必要があります。読者は登場人物が感情を表に出さない場合、無関心や不自然さを感じてしまい、物語に集中できなくなる恐れがあります。

マシューは、自分が再びボールをポケットに入れてエマのあとをつけていることを、彼女に知られるのが恐ろしかった。きっとエマは、その夜にスパゲティを一緒に食べる約束を断るばかりか、ついにストーカー禁止令を出させるかもしれない。それがあまりに心配で、マシューはエマが立ち止まって靴紐を直していることに気づかず、エマにぶつかってしまった。
これでつけていることがエマにばれてしまった、もうどうにもならない。翌日マシューは仕事に向かった。上司に昇進を願い出ようと思っていたので、彼の機嫌が良いことを願っていた。

マシューがエマに尾行がばれた後、彼がどのような感情を抱いたのか、どのような行動を取ったのかが全く描かれていません。マシューの恐れや焦りが言及されているものの、反応が具体的に示されていないため、読者がマシューに共感したり物語に引き込まれたりすることが難しくなっています。
また、尾行がばれた直後の展開が描かれずにシーンが変わってしまい、読者が結末に対する疑問を抱えたまま進んでしまいます。

改善案
マシューはエマに尾行がばれてしまった瞬間、心臓が一気に冷たくなるのを感じた。エマは振り返り、まるで凍りついたような視線でマシューを見つめている。その目が「二度と会いたくない」と語っているのがわかった。
マシューはうつむきながら何か言おうとしたが、言葉が出てこない。彼女の怒りと軽蔑を前にして、心が押しつぶされそうだった。「終わった…」と彼は内心でつぶやき、まるで逃げるようにその場を立ち去った。

ポイント
●登場人物の反応を具体的に描写することで、感情を読者に伝えやすくする。
●重要な出来事に対する登場人物のリアクションを曖昧にしない。
●読者が共感しやすいキャラクターにするために、感情や内面を詳細に描く。
●過程を省略せず、場面の変化や転換を丁寧に描くことで、読者を物語に引き込む。

5.感情と葛藤を伝える

登場人物が何を考え、どのような感情を抱いているのかを具体的に描写することで、読者はキャラクターの葛藤や状況を深く理解できます。抽象的な言葉ではなく、具体的な思考の流れや感じていることを描写することが大切です。

エマは、マシューが長年にわたって自分をつけまわしていたことに気づいた。いったいなぜそんなことをするんだろう。それにあのソフトボールはなんなの?エマは必死に考えたが、説明のつく答えはまるで浮かんでこなかった。

エマの疑問が抽象的で、彼女が何を考えているのか具体的に描かれていないため、読者は彼女の混乱や葛藤を十分に感じ取れません。どんな思考が行き交っているのかが不明瞭で、エマの心の動きが読者に伝わりにくいです。

改善案
エマは、マシューが長年自分をつけまわしていたと知り、心がざわついた。「なぜ私なの? 何か悪いことをした?それとも、ただ私が見下されているだけ?」と彼女は考えた。あのソフトボールも気にかかる。記憶を探るように過去を思い返しながら、彼の意図がわからないことに苛立ちを募らせていた。

ポイント
●抽象的な描写ではなく、具体的な思考や疑問を提示する。
●登場人物が抱える内面の葛藤や混乱を詳しく描くことで、読者は共感しやすくなる。
●物語の中で登場人物が何に悩んでいるかを明確にする。

6.キャラクターの心境変化に納得感を持たせる

登場人物が気持ちを変えたり行動を決断したりする際には、変化のきっかけや背景が明確に描かれていると、読者はそのキャラクターの行動に納得しやすくなります。「なぜ気が変わったのか」を示すことで、登場人物に一貫性を持たせ、物語への理解と共感を深めることができます。

マシューにつけられていると気づいたエマは、スパゲティをマシューと一緒に食べたりなど、絶対にしてはいけないと思った。
だが、「お湯が沸いたから、8分で来ないとパスタがやわらかくなっちゃうよ」というメールをマシューから受け取ったとき、エマは頭のなかで怒りの議論を繰り広げたのち、こう返信した。「ええ、私はアルデンテが好きなの、五分で行くわ」

エマがマシューに会わないと決めた理由が明確でないため、逆になぜ彼女が急に会う気になったのかが理解しづらく、行動に一貫性が感じられません。エマの心境が変わった具体的な理由やきっかけが書かれていないため、読者が彼女の感情や行動に共感しづらいです。

改善案
マシューにつけられていると気づいたエマは、彼とスパゲティを食べるのは危険だと考え、会わないと決めた。だが、マシューから「お湯が沸いたから、8分で来ないとパスタがやわらかくなっちゃうよ」というメールを見た瞬間、ある考えが浮かんだ。
マシューはエマに対して、わざわざ社内ネットワークを使って執拗に私用の連絡を取ることもあり、それが記録に残っている。エマは、食事中にさらに“そういった行動”を引き出し、気づかれないように録画や録音をその場で行うつもりだった。食事が終わる頃には、“社内外で彼がエマを執拗に付きまとい、私用のやりとりを職場にまで持ち込んでいる”という証拠が揃うはずだ。彼の行動が記録に残れば、上司に証拠として提出し、マシューが彼女にストーキングしている実態を公にし、会社に居られなくすることができるだろう。
「これで、彼を追い出し、二度と会社で顔を合わせなくて済む」と心が決まり、エマは「ええ、私はアルデンテが好きなの、五分で行くわ」と返信した。

ポイント
●キャラクターの気持ちや行動の変化には、明確な理由を示す。
●変化のきっかけとなる具体的な描写があると読者に納得感を与える。
●登場人物の葛藤や言い訳を描くことで、感情の動きが伝わりやすくなる。

読者に伝えたい情報量とその取捨選択

具体的な描写は読者に情景やキャラクターを伝えるために効果的ですが、あまりに詳細な情報を詰め込みすぎると逆に混乱を招き、物語から気が散ってしまうため注意が必要です。読者は一度に保持できる情報が限られているため、適度に情報を絞り込み、要点を伝えることが重要です。

ジェーンは黄色い部屋の中をのぞき、綿の詰まった青と緑のペイズリー柄のキルトが広げてある巨大な四柱ベッド、美しい工芸品のような揺り椅子に目をやった。揃いのオーク材の小卓には、本、ほこり、そして炎の形をした真空管の光がまたたいている大きな真鍮のランプが載っていて、不吉にぐらぐら揺れ、その隣にはまだあけていないすり切れた茶色の箱が一六もあり、ドアにいちばん近い箱は60年代の衣服がいっぱいに詰まっていたー革のミニスカート、モスリンのホールタートップ、しわの寄ったタイトな白エナメルのロングブーツ、黄色の子ども用エナメルブーツ、ベルボトムのジーンズ、くたっとした紫のスエードのカウボーイハットーほかの一五箱には、マティルダがその長い生涯のあいだに集めていたすべてがおさまっていたが、マティルダという人は何でもためこむ人だったために、ほかにも…

情報が過剰で、読者がどれが重要な情報か判断しづらくなっています。部屋の色や家具の配置、箱の数や内容物など覚えていますか?これらの情報が次々と登場し、かえって全体像が把握しにくくなっています。
場面の主題や雰囲気を伝えることを優先して、情報は適度に絞り込みましょう。重要な要素に焦点を当てることで、読者が状況を理解しやすくなります。また、細部にこだわりすぎず、読者が想像力を働かせられる余地を残すのも効果的です。

読者が飛ばし読みしない情景描写の工夫

物語において風景や背景、天候などの情景描写は、読者に臨場感を与える一方で、飛ばし読みの原因にもなりやすい情報です。そのため、情景描写をする際には、ただ風景や天気を説明するだけではなく、物語に関連する情報を込める工夫が必要です。

情景描写が必要な理由と工夫

情景描写は、物語が進行する舞台や雰囲気を形作るために欠かせません。しかし、物語の進行と関係のない描写を続けると、読者の興味を失いやすくなります。情景をただ美しく描くだけでなく、その描写を通じてキャラクターや事件のヒントを伝え、読者の好奇心を刺激する必要があります。たとえば、部屋のインテリアがその人物の性格や背景を暗示していたり、街の雰囲気がこれから起こる出来事のトーンを決めているなど、物語にとって意味のある描写にすることが重要です。

例文での比較

一般的な描写
「曇り空が広がり、街にはどんよりとした雰囲気が漂っていた。」

物語に関わる描写
「鉛のような空の下、ゴシック建築の教会がひっそりと影を落としていた。かつてこの教会には、村の秘密が封印されたという伝説がある」

後者のように、曇り空や建物の描写に「村の秘密」といった物語に関わる要素を加えると、「鉛のような空」がただの情景説明ではなく、何か意味深なものに感じられませんか?このように情景描写が背景説明を超えて読者の興味を引く導入になるのです。

読者の心を動かす具体性と物語性のチェックポイント

①具体的な表現を意識する
一般的な言葉や曖昧な表現は「特定的」なものに置き換え、読者に空白を埋めさせないようにします。抽象的な表現を避け、読者が迷わず理解できる描写を心がけることが大切です。

②物語に必要な背景を示す
主人公の行動の理由や背景が、読者に見えにくくなっていないか確認しましょう。行動の裏にある理由や過去の記憶をわかりやすく書くことで、読者はキャラクターの内面により共感しやすくなります。

③メタファーのわかりやすさ
メタファー(比喩)は、読者がすぐに理解し、現実の何に対応するのかを一度で思い描けるようにしましょう。過度に難解なメタファーは物語の流れを阻害しやすいため、慎重に選ぶことが求められます。

④感覚描写を物語に役立てる
感覚的な描写(味や感触など)は、物語の進行やテーマに関わるものに限り使います。物語の進展やキャラクターの内面を深める役割を持たせることで、描写が単なる装飾にとどまらず、読者にとっても印象に残るものになります。


物語を単なる情報の羅列ではなく、読者にとって「感じる」体験に変えるためには、キャラクターの行動や感情、背景描写に具体的な情報を盛り込み、読者が想像しやすいように工夫しましょう。ただし、細かい描写が多すぎると逆に読者が混乱してしまうため、物語に関わる重要な要素に絞り込むことも必要です。


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