銀河鉄道を追いかけて #3
3rd stop 白鳥駅とプリオシンの遺跡
白鳥駅は、しんとしたさびしい停車場で、売店も、自動販売機もありませんでした。改札口へ行ってみると、電灯がいくつかついているだけで、駅員の姿もありませんでした。さっき別の車両から幾人かが降りていくのをたしかに見た気がしたのに、どこへ行ってしまったのか、わかりませんでした。そのまま、正人と真吾は、改札を出てすぐのところから続く、透き通って白いいちょうの並木を歩いて行くと、いつしか、あのうつくしく輝く銀河の川沿いの道へ出て来ました。
「わあ! 汽車から見えてた川だ!」
真吾はそう言いながら、草の生い茂る坂を勢いよく滑り降りて、ずてんと転びました。
「あ、ばか」
正人は急いで真吾を追いかけ、器用に坂を滑り降りると、真吾の腕を引っ張って起こしました。真吾は愉快そうに笑っています。正人は、今度こそ愛想が尽きたとでも言いたげに、手を放しました。
「まったく、お前は……」
正人は、腹いせに真吾の頭を背の高い草原に向かって押しながら、河原の小石に何気なく目を遣って、息を飲みました。遠くから見えていたときから、それらはさまざまな色を放ち、どうにもふつうの石とは違う気がしていたのですが、近くへ来てやっとそれらの正体がわかったのです。正人はまた真吾を引っ張って、川のもっと近くまで連れて行きました。
「マ、マサ。これって……」
「ほんものじゃないか、たぶん……」
きらきらと、星の光を受けて輝くそれらはみな、水晶や、トパーズや、サファイアなどの宝石だったのです。もっと細かい砂も、小さな水晶の粒でした。踏みしめるたび、足元から石の擦れ合う音がします。一歩ごとにその摩擦から、七色の火花が散っていました。二人ともついうっとりと見とれながら、しばらく川沿いに歩いて行きました。
川下の方へしばらく歩いて行くと、すすきで埋め尽くされた崖の下に、大きな白っぽい岩が見えてきました。真吾は『プリオシン海岸』と書かれた瀬戸物の表札が立っているのを見つけました。正人はそっと、その表面のきらきら光る砂ぼこりを手で払いました。ずいぶん古いもののようで、端の方は欠け、表面も削れていて、判読するのがやっとでした。
「海岸?」
真吾が首を傾げます。昔は海岸だった場所なのでしょうか。まわりには、かなり錆びた鉄の欄干や、ペンキが剥げて表面がぼろぼろになっているベンチなどが、ぽつん、ぽつんとあります。正人はもっと離れた場所に、大きな碑のようなものを見つけました。どうやら、かつてここでは発掘が行われていたようです。正人は屈みこんで書かれている字を読みました。
「巨大な草食動物、ボスの化石……あとは、崩れてよく見えないな」
真吾はぽかんと口を開けて、崖を見上げています。
「へぇー、化石なんか採れてたんだ!」
さらさらと風がすすきを撫で、吹き抜けました。正人は、にわかにしんと静まり返った沈黙に、自分ひとりだけが飲み込まれるような感覚に襲われました。はっと、気配を感じて振り向くと、きゅっと足もとの小石が軋みます。背後に立っていたのは、ラムネを売りながら列車の外を走っていた、あの不思議な少女でした。
「あっ、君は……」
少女は両手を後ろにまわしたまま、じっと正人の顔を見つめました。風もないのに、ふわりふわりと銀色の髪がなびきます。正人は耳鳴りを感じて、めまいでふらつきました。
「マサ!」
真吾が、正人の肩に手を置いていました。
「え? あっ、真吾。今……」
正人は今見たことを真吾に伝えようとしましたが、少女の姿はもう見えませんでした。
「大丈夫か? そろそろ発車時刻だから、戻ろう」
真吾は心配そうに言いました。正人は気味悪く感じながらも、真吾に続きました。あの少女が見えていたのは、正人だけだったのでしょうか。