わたしを離さないでを読んだ感想

ネタバレ気にしません。わたしを離さないでを読んだことない人はお帰りください。





クローン人間は生まれた時から臓器を提供するという使命が与えられており、死に方が定められている。
しかし結局は死は死であり、これは人間とクローン人間にとって大きな差はない。
癌で死のうと、交通事故で死のうと、自殺しようと、誰かに臓器を与えて死ぬことは、結果的に見れば同じ死である。
むしろ誰かのために死ぬということは、ある意味で上で挙げた死に方の中で最も満足感の高い死に方なのではないかとは感じる。

またヘールシャムの中ではクローン人間である生徒達に提供のことを隠し、騙すことで、子供時代を普通の子供たち以上に充実したものにした。これは間違いなく愛のある嘘である。
しかし、彼らに彼らの運命を教えるべきという考えも作中で登場する。これも間違いなく愛があるからこそである。

終盤で両者の考えを聞いたトミーが、後者の方が正しいと言ったのが面白かった。
私たち人間は死というものが平等に訪れることを知っていると同時に、病気のない若者が明日死ぬとは一切想像しない。
これに対してトミーにとって死は近くにあるものであることを認識しており、真実を最初から知っていればもっと別の良い結末を迎えることが出来たと考えたからトミーは後者を肯定したのだと思う。
死を意識することで人生は良くなることのではないかと感じた。

またクローン人間は現代を生きる私たちが一度は考えたことがある「なぜ自分は生まれてきたのか」という問いに対して悩むことはない。
それは人間が最初から使命を与えて生まれ落ちたからだ。私たち人間にも神が使命を与えて生まれ落ちたのだったらそんな問いには頭を悩ませなかったかもしれない。しかし人間に具体的な使命を一個人に与える神は存在しない。

このように考えてみると、クローン人間の生き方の方が気楽に人生を送れるような気がしてきた。選択の自由がないというのは、頭を使わなくて良い分楽である。私たち人間の選択の自由がある世界からヘールシャムを見ると、生徒たちは悲劇的な運命を持っている可哀想な存在であるが、私たちとの"差"を知らなかった時、彼らは私たち以上に幸せなのではないかと思った。
必ず老衰しかしない世界から私たちを見るものがいたら、私たちは可哀想な存在のように感じているだろう。でも私たちをそうゆう意味で可哀想であると感じる人たちはいないのである。

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