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降圧薬の種類

 降圧薬について、1年目研修医向けに記事を書きました。「ぶっちゃけ内服ならアムロジン少量だけ使えれば良いんじゃない?」みたいなことも書きました。

 では、今日は次のステップにいきましょう。今日は中年男性の高血圧という具体例を通して内服をメインに話します(が、点滴薬も概ね種類が同じであれば作用機序は一緒ですから安心してください)。

外来でのシチュエーション

 例えば、すでにアムロジンを10mgくらい飲んでいる人が、最近また血圧手帳の血圧をみると、

1日 朝:144/92mmHg、夕:156/96mmHg
2日 朝:138/88mmHg、夕:160/94mmHg
3日 朝:146/88mmHg、夕:150/88mmHg

みたいな感じだったら、次はどうしましょう。悩みますよね。改めて減塩指導をしてみたり、様子を見てみたり、いろんなアクションが考えられます。当然、この方の基礎疾患によってアクションはまったく異なるでしょう。

これが「高血圧のみの中年男性」ならどうしましょう

 話をわかりやすくするために、患者背景をこうしてみましょう。

「43歳男性、生来健康で健診で3年前から160/90mmHgくらいの高血圧を指摘されていたが放置していた。
 仕事の同僚が180/110mmHgくらいの高血圧を放置し続けていた結果、2年ちょっと前に脳出血を発症。寝たきり・植物状態に近い状態になった。これにショックを受け、2年前から熱心に通院してくれるようになった。上記の通り、血圧手帳は朝晩記録してくれるほど熱心である。各種検査を施行したが、いわゆる「本態性」高血圧症であった。
 減塩指導や運動療法などを指導するも仕事柄、外食がどうしても多く、多忙で運動も取り入れられない。仕事がそもそもハードワークなので運動はこれ以上はしなくて良いと思っているとのこと。
 1年前からアムロジン2.5mgから徐々に​開始したが、なかなか至適血圧に至らず、アムロジン10mgを処方しているのだが血圧手帳は上記の通り、「もう少し下げておいてあげたい」レベル。

次に何を使うか?(ここで、他の降圧薬の知識が必要に)

 ここでのミソは、「すでにアムロジンをたっぷり飲んでいる」というところです。「なかなか生活習慣の改善も難しそう」ですよね。
 では、降圧薬を追加しましょう。ここで問題は、次に何を使うべきか?ということですね。

 先に言いますと、僕なら「フルイトラン1mg」をまず試します。もしくは「テルミサルタン10mg」です。

  降圧薬は、基本的に、「増量」よりも「併用」が推奨されます。単剤でドンドン量を増やすメリットは、「錠剤の量が増えない(大きな錠剤になるだけ)」ことかもしれませんが、服薬コンプライアンスにはそんなに影響はないでしょう。だから、本当はアムロジンだけ10mgになるまでドンドン増量するよりはもう少し早めに併用しても良かったかもしれません。ですが、「他の降圧薬の知識がないと、選べない」ので、漫然と増量してしまいがちですよね。

教材はたっぷりある。

 高血圧ほど一般的でガイドラインもしっかりしてきているジャンルは他にありませんから、学習するのに教材には困らないと思います。だからこそ、むしろみなさんは「よくある副作用」から学んで貰えば良いと思います。副作用にさえ注意して使えば降圧薬のチョイスはそこまで難しくないハズです。


やっと本題(前置きが長くてすいません)

 で、結局、降圧薬は何を選ぶ?という話ですね。実は基礎疾患がある方は、「基礎疾患別」にオススメの降圧薬があります。まずはガイドラインをみてざっくりおさえておきましょうね!
 本患者には基礎疾患がないという前提でしたので、フェアに選びましょう。

カルシウム拮抗薬(「なんでもいい」ときに確実)

 アムロジンは「確実に下げる」ジャンルである「カルシウム拮抗薬」ですね。このジャンルの最大の特徴は「降圧効果が確実」で無難というところです。あまり目立った副作用がないので内服しておられる患者さんも非常に多い印象ですね。この患者さんでは十分量を投与していますので、カルシウム拮抗薬の追加・増量よりは別の種類を考えましょう

サイアザイド系利尿薬(塩分多い生活してそうだな)

別記事で強調していますが、これは「純粋な利尿薬」とは印象が違います。患者さんにもよく「尿がいっぱい出るなんて困る」と言われるので、きちんと「降圧目的」であることを説明しましょう。降圧薬の中で唯一「Kを下げる」効果があることがミソだと思っています。つまり、「Kをあげてしまう降圧薬」たちと相性が良いのです。あまり使われることのないサイアザイド系利尿薬ですが、そう考えると非常に使いやすいと思いませんか?とはいえ、低Na血症を起こしうることから、少量投与が推奨されています。なので「投与量の調整」はほとんどしません。「使うか・使わないか」だけです。中にはカルシウム拮抗薬並みにしっかり血圧の下がる方もいらっしゃいます。「塩分過多なんじゃないかなー」と思うような患者さんには選択しても良いでしょう。多分、僕ならこの患者さんにはフルイトラン1mgを試してみると思います。次回の採血でNaとK、そしてUAを確認するために採血を予約しておきましょう。

ACE阻害薬 / ARB

 あえて2種類をまとめて述べましょう。いずれもレニン・アンギオテンシン系阻害薬という点で似ています。長期的な「腎保護」作用(糸球体内圧を下げる)があるため、特に糖尿病腎症の方には優先的に使用しましょう。副作用の「高K血症」も共通ですね。
 ですが、ACE阻害薬の「空咳」が結構評判が悪いためか、はたまた降圧作用が割と確実な印象を受けるためか、後者のARBの方が圧倒的なシェアを占めているような気がします。「アムロジン+テルミサルタン」みたいなパターンで処方されている方が多いなあと思います。その点、僕もこの患者さんにARBを足すのは「アリ」かなと考えます。

 ACE阻害薬でも良いんですよ?本当は。でも、空咳を理由にARBに変更することも結構あるので、「ぶっちゃけACE阻害薬使うくらいならARBでいいや」って思ってしまいがちです(僕は心疾患をメインに診ているため、ACE阻害薬にはこだわって使用していますが、心疾患のない患者さんの降圧目的ならARBにしちゃうことも結構あります)。

β遮断薬

 ぶっちゃけ、完全に「心臓のお薬」になったと思います。「ザ・心臓のサプリメント」であるカルベジロールとビソプロロールの2種類を覚えておきましょう。β遮断薬は非常に良い薬ですから別記事で熱く述べますよ!
 ですが、正直「降圧薬」としてβ遮断薬を選ぶことは稀なんじゃないかなあと思います。別の処方理由があってβ遮断薬を投与する。そのときに「血圧も一緒に下がるから注意しようね」くらいのイメージではないでしょうか。
 僕は心臓専門ですから、個人的に使用頻度は圧倒的に高いです。ですが、降圧作用に最初から期待して使うことは「稀」です。降圧薬としては影の薄い薬、と思ってください。
 使うとしたら、「人前でアガりやすい」人ですね。あと、「血圧が高いと心配で居ても立っても居られない」タイプの人に使うこともあります。そういう場合でも使うのはカルベジロール(アーチスト)ですね。ビソプロロールはもっと「狙い」が明確なお薬です。インスリンを使っている糖尿病患者さんに使う場合は「低血糖症状がマスクされうる」ことに注意してください!

α遮断薬/アルドステロン拮抗薬などその他の薬

 今回は出番なしです。とりあえず、ガイドライン的に、ここまでに登場しなかった降圧薬は「優先順位がどうしても低」いため、いったん保留にしておきましょう。ぶっちゃけ「α遮断薬」が必要な場面があるとすれば、それは「専門家に任せたほうが良い」タイミングだと思います(褐色細胞腫だとか、難治性高血圧だとか)。あと、「妊婦さん向けの降圧薬」というのもありますが、多くの場合が「妊娠高血圧」であることを考えると産婦人科医に任せたほうが無難です。

イメージできましたか?

 というわけで、基礎疾患のない中年男性の高血圧。アムロジンをかなり高用量使っていて、次に何を併用するべきか?というシチュエーションで考えてみました。いかがでしょうか?特に研修医のみなさん、「外来で高血圧をみる」なんて経験はあまりないと思いますが、イメージできたでしょうか?イメージができたら、ガイドラインも「読みやすく」なっていることでしょう。書いてほしい記事のリクエストもお待ちしております!


ちなみに、「利尿薬」というジャンルの中でサイアザイド系利尿薬の立ち位置がもう少し知りたい、という方はこちらをどうぞ。


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