ブドウの霜害とは?メカニズムと対策、耐寒性品種
霜害と凍害ってなんとなく違う現象だとは思うけど具体的には何が違うのか分からない。
そもそも霜ってなんだろう?と自分でも上手く説明が出来なかったため、まとめていこうと思います。
この記事では、霜害をピックアップしています。
凍害についてはこちらから
☆凍害と霜害
まず、凍害と霜害の相違点を明確にします。
凍害と霜害は、植物細胞・組織が凍結して、損傷する点までは同じですが、凍害は耐凍性が大きな冬季に起こるのに対して、霜害は耐凍性を失い、生育が開始した春先に発生します。
ブドウの凍害の具体的な損傷としては、凍裂や※越冬芽の枯死が挙げられます。
そして、ブドウの霜害は、春の低温により、※芽の細胞内の水分が凍結し器官が損傷して枯死、または芽の脱水による枯死を指します。
簡単にではありますが、霜害と凍害の相違点については説明したので、以降は発生メカニズムや対策法などを説明します。
☆霜害のメカニズムと対策
本題に入りますが、そもそも霜とはなんなのでしょうか?
霜害による被害を抑えるために、まず霜のメカニズムから理解してみましょう。
・霜とは
0℃以下まで冷やされた空気中の水蒸気は、地面や植物などの表面に付着すると氷の結晶となり、これを霜と呼びます。
夜間では、太陽からの熱の供給がなくなため、地面や草などの物体が熱を放射して、周囲の空気が冷えていきます。この現象により、空気中の水蒸気が0度以下まで冷やされて、霜が降りやすくなります。
発生しやすい条件としては、晴れて、風が弱い時。つまり放射冷却現象の効果が強い時です。また環境的には、湿度が低い地域です。
以上の条件が揃いやすい場所は、内陸部や盆地です。例えば、フランス・ブルゴーニュ地方などの内陸部では、おそらく霜の発生率が格段に高いと推測できます。(実際によく聞きますし)
☆対策
根本的な対策としては、萌芽期が遅い品種を植栽することと放射冷却現象の効果が弱い場所を選ぶ、です。
前者は、萌芽期が遅ければ遅いほど、平均気温が上昇しているため、霜害リスクが抑えられます。
後者は、海や湖が近い場所を選んだり、盆地のように冷気が溜まり易い場所を避けるということです。
対症療法としては主に三つが挙げられます。
・加熱法
空気を温めようって話です。
鳥取県でブドウ栽培をされている @nagase_vineyard さんのツイートを拝借しました。
・送風法
送風機で、冷気を吹き飛ばそうという話です。自動化が容易で、加熱法と併用することで、より効果が高くなります。
・散水氷結法
フランスでワイン造りをされている @Genki_Wine さんのツイートを拝借しました。
凍らせてしまって大丈夫なの?!と思ってしまう方はいるのではないでしょうか?私もその一人です!(^^)!
この対策方法を説明しますと、まず水が氷に凝固するときに、水1gにつき80カロリーを放出します。この放出熱(潜熱)を利用して、持続的に0度以下にならないようにすることが、氷結散水法の目的です。
水が凍り、芽は氷で包まれますが、放熱してからしばらくの間は0度が維持されます。(完全凍結するまでは0度を保つ)
そして、氷が完全に冷えない内にまた散水を行うことで、また潜熱の効果を得られ、また0度を維持するのです。
ブドウは発芽期頃で-2℃,展葉初期頃で-3℃前後の温度が30-60分程度続くと,新芽又は若葉が被害を受ける(1)。とあるので、上手く対策できれば理論上は霜害を防ぐことが出来るのです。
・罹災後の処置
ブドウの芽は、下記画像のように、主芽(P)と副芽(S,T)が存在する。
基本的にワイン用ブドウでは、主芽が発芽するが、凍害や霜害で損傷した場合は、耐凍性が高い副芽が生存し発芽する可能性があります。
しかし、副芽は着果量が少ないため、完全に主芽の代替とはなり得ません。
このため霜害が頻発する地域では、主芽の耐凍性が高く、副芽が着果量が多い品種が理想的と言えます。
☑まとめ
・霜は放射冷却現象が大きく関係している。
・対策は、萌芽が遅い品種、耐凍性が高い品種を植栽する。
・対症療法は金がかかる。
・主芽より副芽の方が耐凍性は高い。
☆用語解説
本題であるメカニズムの説明には専門用語を用いるため、用語解説をしておきます。覚える必要はありませんが、把握だけして頂けると、より一層楽しめるかと思います。
※他学問や他分野では意味が異なる場合があります。
・越冬性
植物が害なく越冬できる能力を指します。積雪のない状態で強い冷え込みにさらされると凍死する凍害や雪の重みで折損する雪害、ネズミによる鼠害などが含まれる。
・耐寒性
寒さの厳しい地域で越冬できる能力(耐凍性)が高く、土壌の凍結による乾燥にも耐える植物を一般的に耐寒性の植物と呼ぶ。越冬性と違い、雪害などは含まれない。
・耐凍性
氷点下に冷却されても、生存のために不可欠な組織や器官で細胞内凍結を回避する仕組みや、細胞外凍結あるいは器官外凍結による凍結脱水に耐える能力を指す。
・耐凍度
植物が何度まで耐えられるかを数値で示すための尺度。生きていられる最低温度、または50%生存している温度で耐凍度を表す。
・低温回避
植物は、気温が氷点下にならない場所を選び生活したり、生存に不可欠な細胞や組織を被覆して氷点下に冷やされないように防いでいる。このように生育地を選択したり、凍結潜熱を利用して、危険な寒さを回避することを低温回避という。
・凍結回避
体温が氷点下に下がることは受け入れるが、体内の重要な器官や組織が凍結することを、脱水や過冷却を行って避けている。これを凍結回避という。
ブドウの耐凍メカニズムはまだ解明されていないが、冬芽は過冷却で凍結を回避をするとされている。
植物は凍結防御物質として、細胞内に糖や糖アルコールなどを貯蓄することにより氷点を低下させている。
💡過冷却とは
水(水溶液)は通常、氷点以下まで冷却されても凍結はせず、しばらく冷却した後に凍結する。水(水溶液)が氷点以下まで冷却されることを過冷却という。
・細胞外凍結・器官外凍結
気温が氷点になった時に、細胞内ではなく細胞外に氷晶の生成を促すことを細胞外凍結という。植物の細胞間には細胞間隙という空間があり、細胞内と同様に様々な物質が存在します。しかし、細胞内より糖質濃度が低いため、まず細胞間隙に氷が生成される。
氷は周囲の水分を吸い寄せるため、細胞内の水分も細胞間隙に移動する。しかし、氷は細胞膜を通過することは難しいため、細胞内の水分量は減少する。すると、細胞内の溶質濃度が高くなるため、更に凍結し辛くなる。これは、植物が、凍結は受け入れるが、致命的である細胞内凍結は防ぐ仕組みです。
器官外凍結は、細胞外ではなく、器官外になっただけでメカニズムは同じです。ブドウの越冬芽でも脱水が行われていると報告があったので、個人的には器官外凍結なのではないかと考えています。
・順化
簡単に言うと、人間も冬が近づくにつれて、冬服を準備し、徐々に寒さに慣れていく。そして、また春が近づけば、春服へと移行する感じです(可逆的)。
これが低温順化と脱順化の概念です。
いくつか難しい用語が出てきましたが、なんとなくニュアンスが微妙に異なるという事と、植物も冬支度をしていると分かって頂ければ問題ありません。
☆参考引用文献
1. 凍霜害 https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/788.pdf
2.ブドウの耐凍性 https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/17759/1/27_p125-142.pdf
3.異 常 寒 波 と 植 物 の 凍 害 https://www.jstage.jst.go.jp/article/seppyo1941/25/3/25_3_78/_pdf
4. https://weathernews.jp/s/topics/202010/220115/
5. https://halmek.co.jp/qa/159
6.霜害機構とその防止法にについて https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/1957/1957_sp_0129.pdf
7. https://www.jma-net.go.jp/fukuoka/chosa/files/harerun0080.pdf
8. https://kininattakoto.com/%E6%94%BE%E5%B0%84%E5%86%B7%E5%8D%B4/
9.植物の 低温馴化 お よ び 凍結耐性 メ カ ニ ズ ム に 関する基礎研 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cryobolcryotechnol/60/1/60_KJ00009328270/_pdf
10.寒冷地における醸造用ブドウ栽培への提案 http://univ.obihiro.ac.jp/~plantphysiol/WineGrapesInColdArea.pdf
11.植物細胞の凍害の機構 Ⅰ : 凍害に及ぼす媒液の影響(1)https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/17645/1/19_p1-16.pdf
12.凍結に植物細胞はどのように適応するか https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/34/10/34_10_656/_pdf
13.植 物 の 耐 凍 性 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/5/2/5_2_73/_pdf