游郷
鷗の背のうえにうつる光が
なぜだか怯えそうに澄み 揺れていた
あの街の塔の更地の階段に
ひとり腰掛け 日をみていた
明日は今日に引掛かるように
釣り鉤から卸され 誰とも
今 目を合わせることもないまま
あなたは
僕の 薄らいだ絹を剥いでいく
浮いた記憶が 零れるように
心を 滑り降ちる
その音 厭に 素直に響く悲しさ
誰とも分からない 瞳
あなたのいろ
空白のよう
白い壁の部屋 鼻唄が満ちる
編み目が 糸へと ほころんでゆく
のこるものなど なにもないのに
残すものなど
僕の廬
誰かが見付けて躓くほど ちいさな
その白いという幻想
滑らかでもない骨
その更紗で包んで
あなたは持って行った
褪せる様も無いほど
さわらかな風に
あなたは解けて徃く
生を受け容れたその時と同じ
幼い横頰で