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(3)歯が悪くなる原因は後天的問題 /歯科医師・野地一成の「維持論」
「食後すぐの歯磨きはダメで30分後が理想的」などという得体の知れないニュースが流れたり、「歯周病に効く」と公然と謳ううがい薬が流行りもののように何年かごとにでてきたり、歯の世界でもいろんなとんでもない情報が錯綜しています。
「虫歯が多いのは親からの遺伝」だと思い込んでいる人もたくさんいますが、実際にはほとんどが後天的問題。どのような生活習慣だと歯は悪くなり、どのように生活習慣を改善すると歯は良くなるのか。その根本的な部分を知っておけば、錯綜するとんでもない情報にも惑わされず、自分の歯を健全に残していけるでしょう。
ビジネスの現場では、会社の設備や工具のメンテナンス、社員やお客様との長いお付き合い、良質な経営の維持などなど、「長く付き合っていくための取り組み」はとても大事。そんな「維持管理」の考え方を「歯」という視点から、この方に連載していただいています。
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▼野地 一成 (のじ いちなり)
野地デンタルクリニック院長。歯学博士。東京都出身。2007年に地元の神田小川町にて野地デンタルクリニックを開業。2010年より母校の日本大学松戸歯学部薬理学教室兼任講師。臨床歯周病学会、スタディグループ救歯会、臨床歯科を語る会所属。発表論文も多数。
・公式ブログ「のじでんのひとりごと」
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日本には歯科医院の数がコンビニよりも多いと言われ、その先生の理念や考え方も千差万別。そんな中、「自分の歯」と長く付き合っていくことを大切に考えていらっしゃる野地先生は、生涯のかかりつけ歯科医として患者さんたちに大きな信頼を寄せられています。
『ビジネス発想源 Special』の「各界発想源」にて2012年11月に連載され大好評を頂いた『歯科医師・野地一成の「維持論」』を、noteに再掲載することになりました。ご自身の歯の維持管理、身体の健康管理はもちろん、会社の設備や工具のメンテナンス、社員やお客様との長いお付き合い、良質な経営の維持など、お仕事にも活用できる多くのヒントが見つかると思います。ぜひご利用下さいませ。
※連載当時の、読者の皆さんの質問に野地一成先生がお答えする「Q&A」も掲載致しました!
※連載当時に同時掲載し好評を頂いた、『ビジネス発想源』筆者・弘中勝による便乗連載企画『弘中勝の「勝手に維持論」』も収録!
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●歯科医師・野地一成の「維持論」
〜長く正しく付き合えば、長く愉しく幸せに。〜(全6回)
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【第3回】 歯が悪くなる原因は後天的問題
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こんにちは。
歯科医師の野地一成です。
皆さんは歯科医院を初診で訪れた際に、一生懸命磨いているにもかかわらずに歯が悪くなっていた、という経験はありませんか?
「親も歯が悪かったし、きっと、遺伝で歯が悪いんだろう……」
患者さんからよく聞く言葉です。
確かにそういうケースもありますが、ほとんどは、生活習慣などの後天的な問題からきています。
「親が悪かったから」という理屈も、遺伝ではなく、実際には「親の生活習慣を引き継いでいる」という後天的問題だったりするのです。
そこで、3回目の今回からは
「歯の健康を保つ生活習慣」
について話を進めていこうと思います。
前回までに、歯を残すことの意義について述べました。
そこで今回からは、その残すべき歯はどのような生活習慣だと悪くなり、どのように生活習慣を変えるとよくなるのかを考えていきます。
歯に良い生活習慣を御理解頂くためにはまず、歯が悪くなる仕組みを知って頂かなければなりません。
歯を失う原因は、3種類しかありません。
・う蝕 (うしょく) =虫歯のこと
・歯周病 (ししゅうびょう)
・破折(はせつ)
です。
このうち、「う蝕(虫歯)」と「歯周病」は、細菌による感染が原因です。
虫歯のことを「むし歯」とひらがなで書くことが多いですが、これはかつて虫歯の原因が「虫」だと思われていたのが、今では虫ではなく細菌だと分かってきたためです。
「破折」というのは、歯が折れてしまうことですが、ぶつけて折ってしまうというよりも歯ぎしりなどの自分の力が主な原因です。
今回は、3つの原因のうち、生活習慣病の様相が非常に大きい、「むし歯(う蝕)」と「歯周病」に焦点を絞って話を進めていきます。
<虫歯の原因>
歯の表面に付着した虫歯菌が酸を出して歯を溶かしてしまう、ということは、皆さんご存知かもしれません。
歯の表面を覆っているエナメル質は、結晶で出来てます。
結晶というものは、ブロックやパズルみたいなもので、大部分はカルシウムとリンというパズルピースが組み合わさってできています。
一方、虫歯菌は、歯の表面に水あめのようにべったりと張り付いて、その内側から酸を出します。ある一定の酸性度になると、パズルを構成しているカルシウムやリンは唾液の中に溶け出ていきます。
この溶け出る過程を、「脱灰(だっかい)」と言います。
この時、唾液中にはエナメル質の構成パズルピースが溶け出た状態になっています。
これを放っておくと、脱灰から数時間後に唾液の酸を打ち消す力でプラーク中の酸性度が下がり溶け出たパズルピースがエナメル質内に戻っていく、と言われています。
この過程を、「再石灰化(さいせっかいか)」と言います。
この脱灰と再石灰化のバランスがとれている人は、歯を磨かなくても虫歯にならないそうです。
しかし、大多数の方は脱灰のウエイトの方が大きいため、放っておくと歯に穴が空いてしまうというわけです。
また、せっかく再石灰化できる時期に間食をしてしまうとまた脱灰をしてしまうために穴が空いていくのです。
このことを簡単に説明すると・・・
「だらだらと長時間、食べ物が口の中に入り続けるような食生活習慣が虫歯になりやすい。」
と、このようになります。
そして、歯の表面についたプラークは、食後早いうちにブラッシングで物理的に取ってしまうのが得策です。
※プラーク = 細菌の塊で、酸を出す根源となるもの
最近、海外の研究でこのようなものを目にしました。
「Brushing your teeth too soon after meals can seriously damage them, warn dentists.」
「食後にすぐ歯ブラシをすると、歯に重大なダメージが与えられる」というものです。
皆さんも、インターネットニュースなどでこの話題を目にしませんでしたか?
しかし、これをその報道の記事だけで理解すると、とんでもない誤解を生んでしまいます。
この研究の実験では、エナメル質の下にある象牙質(ぞうげしつ)という非常にもろく酸に弱い組織をサンプルとして用いている、とあります。
理屈としては、脱灰されかかっている弱い象牙質に歯ブラシを当てるとダメージが増える、ということになります。
このことには何も違和感がありません。
全くその通りだと思います。
しかしですね、町医者である臨床医の私からみると…
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