4センチ上の世界と誇り
バスで買い物に行ったとき、いくつか新しい洋服を買った。
たくさん並ぶショップをちらちら流し見すると、当然だけど多くのアパレルショップが冬物をもこもこもこもこ並べていた。
すごく可愛かった。ああ~いいなあ冬、と思った。
真っ白でふわふわなアウター。網目がざっくりしたニット。オレンジと赤で「極暖」の文字が書かれたいかにもあったかそうなインナー。
見ているだけで目移りしてしまったけれど、私もいろんな洋服をお迎えした。いろいろ買った中でも、私はこの日、4センチヒールのショートブーツをお迎えした。久しぶりにヒールのある靴を買ってしまった話を。
ブラックのつややかな風貌。厚めのヒール幅。足首は、最近流行りのストレッチ素材だ。
私は普段、スニーカーや地面の感触がわかるペタンコタイプの靴が多い。動きやすいのはもちろんのこと、身長のままで歩けるのは安心感がある。世界がちゃんと自分の目線の高さにある安心感っていうのかな。無理してない感じ。
そんな私が4センチヒールのショートブーツを買ったのは、ショップたちから溢れる冬らしさに触発されたのもあるけれど、ちょっと無理をしてでも「素敵な自分」でいたいなと思ったからだ。なかなかヒールを履かないからこそ、4センチが私を素敵にしてくれる、と私は思う。
そしてその目論見通り、やっぱり4センチヒールのショートブーツは素敵だった。
いつもより、4センチ高い目線。プラス4センチされた身長。にわとりの鳴き声よりも低い「コッコッコッコッ」の音がなんとも言えない。その音を私が出していると思うと誇らしい気持ちになるのはどうしてだろう。
ただね。ひとつ問題あり。それは、私の足がヒールについてきてないのだ。
普段、足の裏全体を使って歩いている私の足は、そう歩くのに慣れきっている。だからヒールでかかとをあげて、指と足裏の前部分だけで体重を支えて歩くのはまだ少々きつい……。
街中でもっと高いヒールを履いてる人を見かけるけど、足の裏はいったいどうなっているんだ、と思ってしまう。ニュースでは煌びやかなドレスをまとい、レッドカーペットの上をもはや滑り台のような足の形で歩く人がいたりする。足の骨のかたちまで心配になる。
今日、家に帰ってきてブーツを脱いだら、床の平さに頭を下げたくなった。かかとがついているって素晴らしい。足全体で私を支えるって素晴らしい。
足裏の前部分にかけた負担をマッサージしながら和らげてあげる。ちらりと見たら、血が滞っていたのか真赤になっていた。
4センチの誇らしさの代償だ。