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不自然な甘さが優しいときがある

シロップに浸されたパイナップルの一粒を、付属の二股フォークで掬いあげる。たらり、と透明な雫が端っこから垂れた。その粘度こそが、砂糖の多さを物語っているような気がする。

一息に口に放り込むと、不自然なくらい甘い。舌が過剰な甘さに痺れる。きゅっきゅっとした歯ごたえのパイナップル。どろどろのシロップのおかげか、食道の輪郭がよくわかる。甘い。とにかく甘い。

だけど、それがなんとも美味しい。ここ最近の幸せは、この瞬間にこそあると思う。

98円の角切りパイナップルの缶詰。パイナップルが輪切りになっているのは、形がいいからなのかちょっとだけ高い。127円。スーパーの陳列棚では隣に並んでいる。私は迷わず、98円に手を伸ばす。仕事終わり、家に帰ってからさくっと食べられるのは、角切りパイナップルの缶詰だ。

たぶん、体には悪いんだろうなあと思う。今気になって原材料を見てみると、果実(パイナップル)、砂糖、クエン酸の3つしか書いてなかった。すごい。体に悪そう。でも、いい。全然いい。

だって、この糖度100%の甘さこそが私を労わってくれる。仕事で疲れた私の身体を「お疲れ様」とその糖度のように甘やかしてくれる。

不自然な甘さこそが、今の私には自然だ。

人間と少しだけ似ている。自然に、ナチュラルな感じに、と意識すればするほど肩には力が入る。防げたようなミスを繰り返し、存在しえなかったはずの迷惑をいろんな人にかけてしまう。

そうか。私は、ちょっとだけ傷ついていたのかもしれない。

目に見えない傷があるときは、絆創膏も、ワセリンも効かない。それは塗れる場所がないから。

でも、とろりと甘いシロップだけが辿りつける場所が、私の身体の中にはある。シロップがたどりついた先で、私の傷をだらしなく包む。もういいよ。ふさいでやったからね。気にするなって。

気づくと、無我夢中で角切りのパイナップルを口に運んでいる。一粒、また一粒。食べるたびに甘さは蓄積されていくのか、ブラックコーヒーが飲みたくなる。とびきり苦いやつ。

最後、缶詰の底に残ったシロップも私は余すことなく飲み干すようにしている。果実の甘さと、少しの残りかすが入っている。最後がどろりと一番甘い。甘すぎて痛い。胃がかあーっと熱くなるような気がする。細胞が甘さにびっくりする。

今の私にとっては、その甘さこそが優しさなのかもしれない。

仕事も、ミスした帰り道も、全然変わらないから辛くなるときがある。明けない夜はない、のセリフすらも痛くなるときが、ときどきある。

そんなとき、わかりやすく甘いフルーツ缶詰は確かに私を甘やかしてくれる。だって、そもそもがめちゃくちゃ甘いから。

うん、今日も甘さはやっぱり甘かった。優しかった。明日も頑張れる。

”終わりよければすべてよし” になれましたか?もし、そうだったら嬉しいなあ。あなたの1日を彩れたサポートは、私の1日を鮮やかにできるよう、大好きな本に使わせていただければと思います。