あとから甘くなる、「角砂糖」という企画
大学生のとき、サークルで仲の良い女子数十人で今でいうエアビーを借りて巨大お泊り会をしたことがある。
素敵な女の子たちが十数人集まったらそれはもう、それだけで素敵な素敵なことなんですよ。お喋りする内容はなぜか全く尽きないし、時計が壊れたかのように時間がぐるぐるぐると過ぎていく。
甘く、楽しく、そして、とてつもなく儚い幸せな空間。
数人の小さなグループで話していたかと思えば、全員が輪になって大きな話をする。
「好きってどういう瞬間にそう思うのか」という、果てのない恋の話。
「将来はどんな人と結婚し、どんなふうに暮らしたいか」という、明るすぎて見えもしない将来の話。
「今、1億円が手に入ったら」という、叶いもしない欲望の話。
私たちは、一瞬にしてどこへでもいけるし、どんな話にも接続できる。それが女の子。
会話の終盤、「ちょっとしたいことがあるんだけど」と言い出したのは私だ。
私は今日、こんな素敵な彼女たちのために、とある企画を用意していた。
それは、「キュービックシュガー」という名前をしている。
キュービックシュガー、角砂糖。
もう名前だけで素敵じゃないと思うのだけど、我ながら内容も素敵なのだ。
必要なのはペンと、真っ白の正方形のメモ用紙。文字が書ければ裏紙でもなんでもいいのだけれど、その紙こそが角砂糖になる。
「その紙に、あみだくじで決まった相手のいいところを3つ書いてほしいの。時間は、5分ぐらいでいいかな」
そうして、あみだくじアプリでいる人の半分の子の名前を上に設定し、もう半分の子の名前を下側に設定した。
「じゃあ、スタート!」アプリの中でピコピコと音がして、くじをたどっていく。川に流す笹舟を思い出していた。下に下がり、横に曲がり、だんだんとゴールに近づいていく。
「できた! AちゃんとCちゃんがペアで、BちゃんとEちゃんがペア。DちゃんはFちゃんとで」そう言ってどんどんペアを発表する。
「よし! じゃあ、発表し終わったから今から5分測るね!」
タイマーを設定すると、みんながメモ用紙にペンを走らせた。
沈黙の5分間。
けれど、幸せの5分間だったと私は思う。たった一人のことを考え、ときどき相手に目をやる。「ちょっと何見てるの」と、くすくす笑いがさざ波のように伝染する。「いや、いいところありすぎて書けないんだよね」くすくすくすくす。
ピピピ。
5分経過のタイマーがなる。
「書けた? じゃあその紙を相手と交換して」
沈黙が終わり、ざわざわとみんなが交換を始める。
「えーちょっと何これ! 嬉しんだけど!」「あ~こんなところ見ててくれたんだ」「……意外、こんなにバレてると思わなかった」「めっちゃ、ありがとう」「うん、こちらこそありがとう」
ひとしきり、きゃあきゃあとしたあと、みんなが一斉に私を見た。
「なんでこれしたの?」
「なんか、少しでもみんなの思い出になるようなことをしたくて。その3つのいいところは、きっと他の人も思っていることだろうし、もしこれから、自分のことがわからなくなったり、嫌だなあって思うことがあったらこれを見てみて。
これが角砂糖みたいに、みんなの心を甘くしてくれるはず」
そう言って私は、女の子を落とすかのような笑顔で笑った。一番最後が決め文句だった。
「ええ~!!」「素敵すぎる」「めっちゃ嬉しんだけど!」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」。
ぜひ、みなさんもやってみてね。