金木犀の匂いの話
家の前に伸びる坂には、金木犀がたくさん咲いている。
金木犀といえばあの、甘くて鼻をくすぐる香りがいい。それからオレンジの花がこちょこちょと集まっていて、緑の葉っぱとのコントラストも綺麗だ。
でも、金木犀は孤独で、ずるい花だと思う。
というのも、金木犀は雌雄異株といっておしべとめしべが樹ごとで完全に分かれている植物のひとつだ。雌雄異株は、雌株と雄株が同等数ないと植物として増えていくことができない。
しかし、日本にある金木犀の樹はほとんどが花付きのいい雄株だけらしい。
つまり、日本の金木犀の樹は自分で増えることができないのだという。中国だかには、雌株もあるから虫がめしべを運んで金木犀の樹が勝手に増えてゆく。
何が言いたいかというと、金木犀が生えていたらそれは人工的に植えられたということ。
そこで私が思ってしまったのが、そうやって人工的でもいいから植えてもらうために「好きになって」と言わんばかりに芳香を漂わせているのかもしれないと。
しっとりと鼻につく甘美な香りは戦略なのだ。金木犀が自然界を生き抜くために、人に好かれるための作戦的香りなのだ。
いじらしい。そうやって好きになってもらおうとする金木犀たちも、それに便乗して秋になると、ここぞと「金木犀の香り」を謳う私たちも。
香水、シャンプー、ハンドクリーム、ルームフレグランス、ヘアワックス、とにかく香りがつけられるあらゆるものに金木犀を混ぜ込む。
オレンジのこちょこちょと咲いた花。
坂道に並んで咲いていた金木犀の花は、ここ最近の不天気で道端にほとんどが落ちしてしまっていた。
オレンジの残骸。匂いはなくなって、散り散りになった夕日みたいな花弁を雨が濡らしていた。
私たちは、ほんとうに金木犀が好きなんだろうか?
そんなことを思ってしまった。
そういえば、まだ誰にも言ったことはないけれど、金木犀の香りとヤマトノリの匂いって似てるなあとずっと思っている。
どこか薬品ぽく甘い、しっとりと濡れた匂い。
”終わりよければすべてよし” になれましたか?もし、そうだったら嬉しいなあ。あなたの1日を彩れたサポートは、私の1日を鮮やかにできるよう、大好きな本に使わせていただければと思います。