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桜花の候
「今日はすごく気持ちがいい。
のどかでいい空気」と
魚屋の奥田さんがやってきた。
彼女は70代くらいのお婆さんだ。
「何十年も此処で暮らしてても
改めてそう思えることが素敵ですね」
と答えた。
「いやでもね、子育てしていた時や
住宅ローンを払うために旦那と必死に
働いてた時なんかは余裕がなかった、
例えば満月や満点の星空を仰いでも
なんとも思わなかった。
でも人生にひと段落がついて
心に余裕ができたから
そういうふうに思えるようになったのよ。」
と奥田さん。
素敵な話を聞かせてもらった。
「じゃ、帰るわ。がんばってね。」と
ふと外を見て
「今日は風が強いのでお気をつけて」と
見送った。
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それにしても外の風が強くなってきた。
外の植木鉢がひっくり返りそうになりながら
桜の木から花びらが吹き荒れていた。
この風が
町を一掃してくれるのか
もしくは荒らすのか
前者のような気がした。
初午や年度がわりの雑踏の日々を
リセットしてくれるような春一番
この町の新たな一章が
始まる合図のような気配がした。
読了ありがとうございました。
Lg kanal kato
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[ 桜花の候 ]