時には昔の話を
ある日、昔の話をした。
互いの、まだ出会う前の話だ。
そこには良き友人でもある彼女との哀愁と青春が沢山散りばめられていた。苦虫を噛み潰したような過去の青い時代を語ることを彼は本当は好まなかったのだが、この時は「時には昔の話も悪くないものだ」と思えた。
ところで、思い出は自分だけのものだ。なんて辻仁成の物語に書いてあった気がする。ありとあらゆる過去の出来事を憂鬱に感じるかそのまま受け入れるか、それとも美化するか。全ては自分次第なんだ。ただ当時の自分を否定しちゃならない。当時の自分が考え抜いて、出した決断によって起きた出来事を羞恥するのは、自らを否定することになる。その時がなければ今のあなたは存在し得ないのだ。
今を良しとするのだ。
そして過去を許すのだ。
帰り道、路肩に駐車されてるボンネット映し出されてた遠くの森を背景にぼんやりと回想する。様々な人に出会った、別れを経験した。ヒトとの関わりの中で、様々な愛の形を知った。非情な思いを味わった。
月並みな生活しかすることはできなかったが
それだけで幸せだったんだ。
[ 時には昔の話を ] - 短編小説
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