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アートと植物が繋ぐ、まちの記憶~崇仁地域の「挿し木プロジェクト」~
馴染みのあったまちの風景が、ある日消えていた。
自分の一部が失われたような気持ちになり、切なさで胸が苦しくなった。
そんな経験はありませんか。
歴史が感じられる建物があちこちにある京都ですが、老朽化に伴い維持管理が困難となり、解体されてしまうことが少なくありません。
全国各地でも、人口減少社会に入り、空き家や耕作放棄地が増加し、また、都市戦略としてエリアの再生を図るための大規模開発が行われることもあり、これから「ふるさとの風景」がどんどん変貌していくことが予想されます。
記憶の中に残る懐かしい風景は、時代が移り行く中で静かに忘れ去られていくしかないのでしょうか。
京都駅の東部にある崇仁エリアは近年、京都市立芸大の移転に伴い、まちに大きな変化が起きた場所です。
ここで、移り変わるまちの記憶を未来に継承するための取り組みが行われていることを知人から教えていただき、活動報告会に参加。
たくさんの善意がつながり、温かい世界が広がっていることを知り、久々に目頭が熱くなりました。
本当に素晴らしい取り組みで、少しでも多くの方にしっていただきたいとの思いから、記事に残そうと思います。
崇仁すくすくセンター(挿し木プロジェクト)
2023年、京都市立芸術大学と京都市立美術工芸高等学校が崇仁エリアに移転。これは、老朽化が進む市営住宅が立ち並ぶエリアを文化芸術の力で活性化させる、京都市の一大プロジェクトとして行われたもの。
崇仁すくすくセンターの挿し木プロジェクトは、この新たなまちづくりによって大きく変化する崇仁地域において、まちと共にあった小学校、市営住宅、保育所などで命を育んできた樹木の挿し木を媒介とし、地域の皆さんや様々な人たちと見守ることで、土地の記憶や人の繋がりを継承していくことを目指すプロジェクト。
アーティストの山本麻紀子さんが呼びかけ、賛同した建築家や福祉施設、市職員が実行委員会を立ち上げました。
2020年から、10年計画で取り組みを進めておられます。
ちなみに、建築家のご夫妻は、瀬戸内国際芸術祭を機に誕生した、食とアートで人々をつなぐ場「島キッチン」を設計された著名な方。この日もわざわざ拠点の関東から駆けつけておられました。
また、市職員は、当初文化芸術セクションにいた者でしたが、今は異動(しかも激務!)していますが、活動に共感し、今も関わり続けています。
このプロジェクトが、どれだけ人を繋いでいるかが、ここからも感じられます。
すべての人に居場所と出番が生まれる活動
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挿し木プロジェクトの目的は3つ。
○土地の記憶をつなぐ。
市立芸術大学等の移転に伴い、まちの風景は一変しました。
移転事業は、高齢化・建物の老朽化という課題は解消されるものでしたが、地域の方は複雑な思いだったそうです。
高齢者にとって住環境が変わるということは、心身の調子を狂わせるリスクがあります。また、知り合いと離れ離れになり、不安に思う方もおられたそうです。
そこで、再整備敷地内で生きていた樹木の枝を採集し、挿し木にして育てることで、風景が変わっても植物を通じて地域の記憶を残すことを試みておられます。
また、山本さんが地元の方に丁寧に聴き取りを重ね、また地域の歴史をリサーチすることで、挿し木をどんな場所に植えるべきか、考えておられます。
挿し木を採取した場所、その後地植えした場所は、上記のウェブサイトでアーカイブされています。
○挿し木で地域の暮らしに根差した作品をつくる。
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移転した市立芸術大学や美術工芸高校の学生さんと連携し、枯れてしまった挿し穂を染料にする等で、アート作品を制作。移転した市立芸術大学で展示も行ったそうです。
制作には、地域のお年寄りや保育所の子どもたちも参画されたそうで、元々地域におられた方と新しく移ってきた方との共創が生まれています。
○挿し木をきっかけに、新たなつながりを育む。
植物に詳しい方がいなかったため、福祉サービスを受けている方の中でお花に詳しい方に助言してもらったり、看板やプランターを作ったり、市立芸術大学移転を機に地域から離れてしまった方に、苗木を育てていただいたり。
押しつけでなく、自然にそれぞれの方ができることをする輪が広がっているそうです。
また、梅小路公園で完熟たい肥づくりをしているビジネスパーソンや植物に詳しいまちづくり活動家の方など地域外の様々な方とのつながりが生まれ、活動を支える輪が広がっています。
京都市は現在、「すべての人に居場所と出番のあるまち」を目指しています。難しいことだと思っていますが、このプロジェクトでは、それができていることに感動するとともに、とても勇気づけられました。
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渉成園に地域の記憶を残す
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2025年1月18日、市営住宅23棟に植えられていたアジサイの挿し木を、渉成園に地植えする会が行われました。
この場所は、お年寄りの皆さんにとって、授業を抜け出して、壁を乗り越えて、遊びに来ていた、思い出の場所だったそうです。
渉成園は著名な庭園であるとともに、国内外から多くの方が訪れる観光地でもありますが、所有者である東本願寺さん、渉成園の庭師さんもこのプロジェクトを聞いて快く受け入れられたそうです。
お年寄りから赤ちゃん(お母さんのアシスト有)まで、みんなで地植えや看板の設置作業を行い、ここでも優しい世界が広がっていました。
渉成園には腕利きの庭師さんがおられます。植えられたアジサイは、名庭の風景の一部として、地域の記憶を確かに未来に継承していくことでしょう。
アートが、生きる力に。植物が、人を繋ぐ源泉に。
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活動報告会で、それまでアートに関わりのなかった福祉施設の方が「アートは生きる力になる」と力強く語っておられたのが、とても胸に響きました。
お年寄りは、当初アート作品が何になるのかわからない様子だったとか。
それでも、作品をつくるプロセスを共有するにつれ、「ほかに何か関われないの?」と、楽しみに変わっていったそうです。
また、アーティストの山本さんは、人がつながり、コミュニティを育む植物の力の凄さを力説しておられました。
アート作品になることで、「生きた証」が時間を超えて残されていく。
また、そのマテリアルとして、地域の風景を構成していた植物が形を変えて生き続ける。
コスパやタイパを意識していては巡り合えない優しい世界が、アートと植物の掛け合わせから生まれていると感じました。
文化と、その源泉となる自然は、京都の最大の強み。
それを循環させられるかどうかは、人間がどう振る舞うかにかかっている。
崇仁すくすくセンター「挿し木プロジェクト」は、今の時代に忘れられがちな大切なことをたくさん教えてくださっているように感じます。
プロジェクトは2030年まで続きます。残り16本の挿し木を大切に育て、意味のある場所に地植えする予定です。
本当に温かい世界に触れられるので、多くの方が少しでもこの取組を知っていただけたら嬉しく思います。
この取り組みを支える輪は広がっていますが、当然収入があるものではなく、多くの方の善意なしには継続は困難です。
ぜひ、ご支援をいただけると嬉しいです。
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ここまでお読みいただきありがとうございました。
最後に私事ですが、かつて崇仁地域の市営住宅の仕事をしていました。
管理担当ということで日々地域の方と接しており、お叱りを受ける一方で、とても温かいお声掛けをいただくことも少なくありませんでした。
ボヤ騒ぎで夜中に現場に駆け付けた際、おばあちゃんから差し入れでいただいたミノの天ぷらの美味しさは忘れられません。
個人的にも思い入れがある場所ですので、京都市が実施している「京都偏愛コレクション」に記事を残したいと思います。