黄緑色の公衆電話
近所にある児童館専用の体育館のわきに、黄緑色の公衆電話ボックスが立っている。コロナ禍真っ最中にその体育館がリニューアルされたとき、公衆電話もピカピカの新品に変わった。でも、使われているのを見たことがない。
散策からの帰り道、私は八幡神社の脇の坂道をダラダラと下がっていた。その道はそのまま片側一車線の道路にぶつかり、横切ると体育館にぶつかる。この辺り、自転車は行き交うが車はほとんど通らないし、横断歩道があるような場所ではない。私がのん気に田舎道を歩いているときに出会うのは、たいてい犬連れのシニアくらいしかいないのだが、その日は、公衆電話の前に立ち止まって、なにやら話をしている親子連れがいるのを、遠目からも気付いていた。
若いパパとママと、おそらく小学生にはなっていないと思われる男の子が、熱心に話しながら電話を掛けているようす。子どもに電話のかけ方を教えているに違いない。背伸びをして何度も、何度も、プッシュボタンを押す小さな手が見えるところまで近づいてきたとき、少しその場から遠ざかっていたパパのスマホに呼び出し音が響いた。「もしも~し、パパ、どこにいるの~」、見えるところにいるのに、受話器を耳に、男の子は嬉しそうに声を弾ませた。思わず笑みがこぼれてしまう。
私だって、もう何十年も公衆電話を使ったことはない。新品の電話機は、使い方も忘れている。ましてや子どもたちはダイヤルはもちろん、プッシュボタンも使えないだろう。でも、公衆電話はちゃんとあちこちに残っている。いざというときに慌てずに使えるように、子どもに経験させている若い夫婦を見て、嬉しくなった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?