すぎゆく雲(超短編小説)
暑すぎた日々が
終わりを告げている。
強すぎた日差しと、
ぬけるような青空の入道雲と、
むせあがる様な熱気が、
柔らかい日差しと、
ちぎれた綿菓子のような雲と、
爽やかな風に変わっている。
昼間は暑いのに、
朝晩は肺に入ってくる外気がやさしく、
起きた時、とても気持ちがいい。
ここ数年、体調が優れず、
仕事も辞めてしまったカノンは
息をひそめて気配を消すように暮らしていた。
秋の気配にカノンの野生が、
ひんやり涼しい風に起こされ、
なにする? どうなりたい?
と、繰り返し聞いてくる。
シワシワで湿った布団のシーツを
何ヶ月ぶりかで剥がし洗濯、
布団は陽にあてた。
つぎに、
コインランドリーで洗濯に失敗し破れたカーペット、
時間ができたときに作ろうと思ってとっていた手つかずの編み物セット、
使いきれず少しずつ残っている古い化粧品たち、
家計簿をつけようとためていたレシート、
部屋着にいいと思ってとっていた着古しの服、
など、ちまちまと大事にとっておいたものたちを一気に処分した。
何でこんなにもやもや過ごしていたのか。
8年前から同居してる
彼氏とも友だちとも言えない
ひとしとの共同生活だった。
同じ空間にいると、気配が重くなり、
横にならずにいられないくらい
体がだるくなってしまうことに気づいてしまった。
彼がいないと、朝でもさっと起きれる。
大好きな夜更かしも楽しい。
なにより、ご飯がゆっくり食べれるのだった。
彼はふわふわと優しく、私たちも仲がよく、
いろんな思い出があって、
心が引き裂かれるようだった。
すべて片付いた未来を思うと
明るい気持ちになって走り出したい自分が想像できたので、
どんなに言われても、関係の解散を推し進めた。
体調不良は気のせいではない。
気づかないふりをして蓋をしていた自分のせいだった。
こんなに体は正直に不調を訴えていることが答えだった。
カノンはアパートの窓から見える秋の空を見上げた。
どこまでも遠く続く水色の空や、
ちりぢりになった雲が風にあおられ
流れてゆく。
出発の日、ひとしはいなかった。
アパートや共用の物を手放す代わりと、
餞別も兼ねてゆずってもらった、
ぼろい昔の型の白いジムニーに
身の回りのものだけを詰めた。
台風が近く、
澄みわたる空で雲がぐんぐん流されていく。
カノンは南の島にある自分のルーツを目指して出発した。