大学講義ワンショット８　トランプ再選

一人の人間が大惨事の前兆として怖れられるのはまれなことです。
トランプがアメリカ大統領に再選されたことを、どう考えたらよいのでしょうか?
選挙前の２つの意見が参考になるかもしれません。

H. James の記事*を読むと、暴力の蔓延や法・制度の侵食、独裁化の傾向を全力で阻む覚悟を、世界の市民は固めるべきでしょう。
選挙で勝利した後、トランプがこれから何をするのか、私たちは警戒しなければなりません。
・・・ヒトラーは圧倒的多数の支持を得て権力を握ったわけではない。むしろ、彼の政治的台頭は、軍隊、官僚機構、警察、そして何よりもビジネス界といった伝統的な機関の反応によるものだった。
・・・ナチスに疑念を抱く人は多かったが、彼らでさえヒトラーの政策の過激さを完全には認識していなかった。
・・・まともな人々の多くは、ヒトラーが間もなく解き放つ暴力の程度を理解する想像力を欠いていた。

Jamesは、1930年代、ドイツのビジネス界がヒトラーを利用できると錯覚していた、と警告します。同様に、トランプの強権体質も多くのビジネス・エリートが軽視しています。
また、当時、日本軍の侵略や大恐慌に揺らぐ国際システムにも、ヒトラーの急速に過激化する行動を制約する力がありませんでした。

そもそも2024年の大統領選挙にはどういう意味があったのか？

D. Brooks の考察**に私は注目します。
・・・政治家は私たちを新たな未来へと導く優れた航海士ではない。彼らはむしろ、社会の中核でさらに下層にいる人々が作り出した波に乗るサーファーのようなものです。

1880年から1910年までのアメリカも、「初め、社会は産業化と制御不能な資本主義によって混乱に陥り、驚異的な経済成長と計り知れない人々の悲惨さを生み出していました。移民の波が国中を襲い、都市部のアメリカは一変しました。都市では政治腐敗が蔓延し、ワシントンDCでは政治的無能が当たり前でした。」

新しい産業化、大きな文明のエネルギーに対応して、「多元主義と多様性の中で、道徳的にまとまりがあり、政治的に機能する民主主義を、どうやって作り出せるか？」

まだ選挙には早すぎる。有権者の喜ぶ約束を競ってかかげる政治家たちに答はない、とBrooksは診断しました。
・・・根本的な変化は、リスクを負い、社会実験を促す、豊かさの時代精神を人々が受け入れるとき、人々の心と精神に起こる。社会のあらゆるレベルで膨大なエネルギーを喚起する包括的な社会的ビジョンを人々が体験する。

公正な賃金と8時間労働を要求する労働組合。自然保護のためだけでなく、自然との接触を通じて得られる人間の活力を育むためにも広がった環境保護運動。企業界に好況と不況を減らすよう命令を下したJ.P. モルガン。図書館、博物館、大学を建設したアンドリュー・カーネギーやジョン・ロックフェラーの社会慈善活動。

トランプの邪悪さと闘い、新時代の市民や産業界の実験は続きます。

*Harold James, "Fascism in Our Time," PS Oct 28, 2024
**David Brooks, "The Election Is Happening Too Soon," NYT Oct. 24, 2024