地方創生を夢にみる
退職後の移住先を求めて、長崎県の五島列島・福江町、四国・高知県の梼原町に行きました。
どちらも遠い。
福江は大阪南港から2つのフェリーを乗り継いで3日かかり、梼原は高速バスで着いたJR高知駅から須崎駅まで列車に乗り、さらに梼原行きのバスに乗って90番目の停留所です。
これまで行ったことのない、
全く違う町に住んでみたい。
日本の四季や豊かな風土を楽しんで、
誰かの役に立つような、小さな職場で、仕事にまじめに取り組むことで、
善意のコミュニティーをみつけたい。
梼原町を選んだのは、「雲の上の図書館」があるからでした。
図書館のほかにも、町役場など、隈研吾の設計した建築物がいくつかあります。
バス路線の終点の手前、化粧坂というバス停でおりました。
初めての町を、徒歩でアクセスするときの景観を観たいと思いました。
いまは Google View で、どんなに遠くの町も観ることができます。
しかし、多くのバス停を通過したあと、国道を逸れて町に入る道を歩きながら、ああ、ここはいいな、と思いました。
梼原にはスーパーマーケットがあります。
新しい郵便局もあります。
総合病院があるのは、この人口規模では例外的でしょう。
なにより雲の上の図書館には、多くの本と、静かな、落ち着いた空間がありました。
図書館でお願いすると、司書の方がていねいに説明してくださいました。
地元の木材をふんだんに使用している。
特殊な構造で屋根を支えるため、柱が少ない。
図書の収集や配列に独自の工夫がある。
梼原町の学校、教育委員会とも、連携している。
入口の階段ステージを使って、演奏会、演劇などの企画を催す。
フロントの横にはピアノやソファーがある。
幼児や母親のためのコーナーもある。
読書の感想を気楽に話し合う機会を設けている。
図書館に来ることがむつかしい高齢者などに配慮して、分館にも本を配置し、定期的に入れ替える。
ネットによる検索や登録、利用の申し込みを推進している。
喫茶コーナーもあり、お茶やお菓子を提供している。
楡周平の『プラチナタウン』を思い出しました。
職場の近く、木曜日の古本市に、100円の文庫本がいっぱい並んでいます。
いつもは時代小説を探しますが、現代の小説もたまにはいいか、と思いました。
東北地方の人口流出が続く「緑原町」の首長を引き受け、総合商社の元部長が新しいアイデアで財政再建するという話です。
それが、東京のような都市の退職者や、周辺自治体の高齢者と若い介護労働者を集める、民間資本による街づくりの計画です。
小説の筋書きや人物は、どうかな、と思いましたが、たのしく読めたのは、そのアイデアです。
なるほど、こういう街があればいいな、と思いました。
メインストリートにある「花の家」という民宿に泊まりました。
とてもおいしい、豪華な朝食を出してもらい、まる一日、梼原町の周囲、川岸の三嶋神社、坂本龍馬脱藩の道、大正時代にできて移築された梼原座などをみて歩きました。
お昼のざるそばを食べて、行くべき主なところは尽きてしまいましたが、図書館でゆっくり本を観て、パソコンを開きました。
移住しよう、と決めたわけではありません。
もし私がリモートでライターの仕事を確立できたら、いつか、この町に住むかもしれません。
しかし、私が就くことのできる仕事はなさそうです。ここには農業がほとんどない。林業と、鮎釣りでしょうか。
また望むような住宅もありません。車に乗らずに町のセンターで住むことは難かしいのです。
なにより、町は私のような高齢者の移住を望んではいないと思いました。
立派な図書館でプラチナタウンの夢を追うのは、不可能ではないとしても、さらに多くのアイデアと公的なインフラが必要です。
そのアイデア(と資本)がある人は、移住を歓迎してもらえるはずです。