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フランス農民一揆とベジカレー

wwoof*で一週間ファームに滞在していた
マリオン(Marion)とコンスタンス (Constance)。

パリのビストロでシェフとして働き、
帰国後は郊外で店をオープンする予定だそう。
一緒に収穫をしたり防虫ネットを張ったり、
休憩時間にお茶を飲み、野菜の処理をしながら、
フランスでの農業従事者によるデモのことや、
フランスで話題のフェミニストが書いた本のことを話してくれた。

フランスには大きく分けて2種類の農家
(①大規模慣行農家、②小規模有機農家)がある。
日本を含め、どの国・地域も似たような状況ではあるが、フランスの農業が異なるのは、
②小規模有機農家が、①大規模慣行農家と肩を並べるくらいの勢力があるということ。

小規模農家には家族経営が多いが、
農家同士がお互いの存在を認識しており、
組合のようなしっかりとした組織ではないものの、Facebookグループでお互いに情報を共有し合うなど、複数のグループを形成できるくらいにメンバーが集まっているという。

ロビイングなどは行わず、
あくまでも権益からは独立した軸から、
徐々に小規模有機農家の層が厚くなった。
仲間がいることで、個々の農家がより活き活きと
活動することができ、その状況が生まれれば、
社会全体で有機農業が普及する。

小規模有機農家は、1970年代から徐々に広がり、
過去20年でその数を増やし、近年ではフランス政府が有機農業 (無農薬・化学肥料不使用) への転換を後押し。2025年までに農薬使用を半減するという目標を打ち立てている。
今では、養鶏や畜産を営む農家も、
かつての養鶏場や養豚場と同じ空間でマッシュルームを育て始めている。

しかし、有機農家への転換は、当然ながら簡単ではない。

これまで大きなトラクターを動かしてきた農家の独力だけでは、農薬以外の道が思い浮かばない。
どうすれば果菜が育つのかが分からない。
ハード面でもソフト面でも、投資が必要だが、
政府からの支援は薄い。

何より、広大な農地でトラクターを使いこなしてきた農家たちは、農機の購入など初期に抱えた借金を返済しながら、何とか経営を回している。

従来の農法を変えることは、一夜にして成し遂げられるほど容易ではない。

有機農業への転換を促すのは政府だけではない。
規制が強化され、ダノンやネスレなどの多国籍企業は、気候変動対策や生態系の回復を掲げて舵を切り、環境再生型農業を謳う。

環境再生型農業の普及自体は望ましいけれど、
この方針転換で恩恵を受けるのは、
農民というより、巨大企業。
一部の権力者が、甘い蜜を吸う。

経営不振を理由に命を断つ農家も多いという。
ますます従来の慣行農家は追い込まれている。

2024年2月にフランスで起き、
ヨーロッパ全土に広がった抗議デモは、
道を絶たれつつある大規模農業従事者の
「これでは生きていけない」という叫びでもある。

大規模か小規模か、慣行農業か有機農業か、という単純な二項対立で農業のあり方をはかるだけでは、この複雑な「生きづらさ」の根本を解きほぐせない。

パリでは、中心部から50km圏内の小規模有機農家を周り、果菜を配達する仕組みがあるという。
都心部に住む人々は、「デスクワークをして外食をし、休日にはカフェに行く」というライフスタイルが飽和状態に達してきており、パリ離れを望む人は増えているらしい。

フランスの小規模有機農家の広がりに可能性を見出す一方、一部の権力者や大企業が資本を拡大する流れを止める難しさも抱えたままだ。
既得権益を持つ人々にとっていいように有機農業が搾取されないためにも、農業のあり方を決めるのは農家であるべきだと思う。

ちなみに、1970年代の小規模農家の広がりと時を同じくして、自然破壊と女性への抑圧の問題の根源は同じであるというエコ・フェミニズムの思想も研究が進んでいる。

フランスのフェミニズムは、ラディカルで、荒々しいそうだ。

フェミニズムに関する本をプレゼントしてくれて、手際が良いのに作業が細かくて丁寧な、
コンスタンスとマリオン。
その人柄と、彼らがつくる、
最高に美味いまかない料理を目の当たりにしたら、ラディカルで乱暴でショッキングなフェミニズムは最高だ、と思わずにいられない。

複雑な「生きづらさ」の根源を解きほぐす鍵を、
フェミニズムに見出している。

*wwoof: world wide opportunities on organic farms、有機農家と訪問者の間で寝食の提供と労働力を交換する仕組み

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