学生さんに幸あれ(4)

行き場を失った。都市伝説とかどうでもよくなった。
何か、勘違いをしていた気がする。

典型的噂の最中で、一つの命が悶えていた。
華は花子さんではないが、華にも華の物語がある。
この学校にその断片があるなら、
彼女の生きた証があるなら、巡礼の後に
「彼女の死」を確かに受け入れたかった。
そしてこの「存在」は、
自分や彼女だけではないのだろう。
この「存在」に終末があるなら、
出来ることと出来ない事を明確にしたい。
もう、疲れたとか終わりたいとか言いたくない。
自分が自分であることを嫌う以上に、
今のこの「存在」について深く興味を抱いた。

雨が降り始める。
「濡れることは可能なのか」
廊下で立ち尽くし、また一つ疑問が浮かんだ。
濡れないのならば、雨はただの背景だ。
窓を開けようとしたが、ピクリともしない。
「カギ」が動かない。悪い予感がする…。
いや、分かっていたことかも知れない。
拳をガラスに打ち付けてみるが、
揺れない、音すらしない。
そういえば、自分の足音が
死んだあの場からずっと聞こえていなかった。

「存在しない」ってそういうこと?

この後もドアや椅子、机、掲示板の紙、
階段の踊り場にあった華道部の生け花にすら触れてみたが、動かない。干渉できない。一大事だ。
障害物だらけの世界だ。
必要、不要に応じて「触れる」事で、集めたり避けたり運ぶことが前進に繋がっていた。
対象物に触れられた感覚が無いのなら、
熱も伝わらない。
閉ざされた扉を開くことが出来ない。
閉じ込められたような感覚に陥ったが
下手に生者に存在を知らしめてしまうよりはいい。

死者としては「動きやすい」のかも知れない。

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