学生さんに幸あれ(1)
月曜日朝
翼が生えた気がした。
いや、正確には「芽」とでも形容すれば良いのか。「翼を生やすならここだろう」そう思える肩甲骨内側の少し上が、軽く疼いていた。息絶えた実感は無く、ただ少しだけ身が軽くなった様な気がする。「生きる」に疲れていた自分は、それを脱いだ今、
体感的な命の重さというものを知った。
例えば、自分の吐息が触れた何れの生物もが
朽ちていくのを目前に、自分の「生」を
肯定出来るだろうか?
例えば、愛している友人・恋人・家族までもが
殺意を剥き出してくるのを目前に、それでも彼らを
変わらず愛し続ける事が出来るだろうか?
愛がために死を受け入れるのだろうか?
そんな他人本位で終末を描きたくない。
あの日、返し忘れた図書館の本だけが心残りで、
他人の情とか自分の思慮に無関心だった。
命を投げ出す一歩が空を切り、
落下を始めるコンマ数秒前、
ブツリと意識が途絶えたと思えば、
自分は自分の後ろに立ち、自分が落下するのを見た。
両手のひらを前に押し出した状態の自分を見て、
察する。
自分を殺したのは、自分の背中を押したのは自分だ。
自分は肉体的な死が訪れる目前に死に、
その傍で死を助長する自分を生み出した。
この手で殺した感触を味わわせて来た自分を、
自分は殺してやりたいと思ったが、
自分はすでに死んでいた。自分が殺していた。
翼の感覚はその頃からだから、
何者かにでもなったのだろうか?天使?悪魔?
リングが無いなら天使ではない。
だが角も無いから悪魔でもない。
誰かに目視される事ができれば、
幽霊では無いことを確かめられるのかもしれない。
死に場所に選んだ不登校中の高校に、死者として、
一生徒として、今日は登校してみようと思う。