学生さんに幸あれ(5)
7月7日。
この日はまさしく今日であり、自分の命日である。
願い届かずこの世に存在し続けるこの身体は、
例年長引く梅雨に埋もれてダボつく、
生き辛い学校に未だ取り残されている。
2時間目のチャイムは既に過ぎた。
何か、他の気づきを得なければいけない。
死んだその日の新鮮なうちに自分を確かめなければ。
有耶無耶にしてきた生前よりも浅はかな日々が、
際限なく続いてしまう事を酷く恐れた。
自分は呪縛霊ではない。この世に未練なんて、
気まぐれに死んだ人間が
タラタラ流す様なものではない。
自分が存在し続ける事を不本意だと断定し、
この存在の実態を確かめる事こそが、この境遇に
陥った人間の課題であり常だと思った。
「初めての死は順調か?」
自分の死を受け入れるには、やはり自分の遺体を
確かめる必要がある。そう思い赴いた自殺に選んだあの教室で、鉢合わせた男は自分にそう問いかけた。
「よくココが要点だと気づいたね、
まぁ、それくらい何となく察するか…。
初めまして、俺はお前の何だと思う?」
彼は企んだ様な笑みで会釈した。
この男を知っている。
自殺までの17年間、自分は死に直面する度に
この男を目にした。同い年くらいでボサボサな金髪。
すれ違い、傘をさして立ち尽くし、
ある時には隣で泣いていた。
声こそ掛けなかったがこの男は、
自分と死の間に立つ異質の存在だった。
「死だ。死、そのものだ。あなたは、俺の中の死。
死が全てあなたではない。俺が理解し得る、
考え得る個人が持つ概念としての死。」
思いついたイメージをそのまま伝えた。
彼はこの世のものではないが、
華や自分とはまた違った存在として彼を受け入れた。
「果たして、それはどうかな。
自分が死ぬと随分知ったような事言うもんだね。
まぁ、俺のことは《シロウ》とでも呼んでくれ。」
彼は死を冗談に交え、自分の考察を笑った。
「それはそうと、感動のご対面といこうか!」
彼は開けっ放しの窓への道を開け、
掌で差し、覗くよう促した。
緊張と興奮で気が狂いそうだ。