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哀しき遭遇

ー引き寄せの法則

とある週末の街角。突然、名前を突然呼ばれ、驚いてそちらを見やる。そこに清潔感ある30-40代の女性。ただ視線が合わない。先を辿ると、隣りにいる奧さんが目当てのよう。一方、奧さんは目が点。どうにか正気を取り戻し、「担当の美容師さんだよ」とポツリ。常日頃から、奧さんは「美容院に行くとき以外、担当の美容師さんには絶対会いたくない」と言っていた。イヤだイヤだと思っていたら、それがいよいよ現実に。引き寄せの法則。

まさかの事態

げっ、まさかこんなところで会うなんてー。奧さんの気持ちを推し量ると大体こんな感じだろう。これまで街中で担当の美容師と会うのを避けていた奧さん。店の近くを通りがかりそうになるだけで、その道を敢えて迂回うかいして会わないようにする徹底ぶり(※)。それを思い返すと、やや気の毒。

奧さんが担当の美容師に会いたくないのは、決してこの美容師を嫌っているわけではない。むしろ、信頼を寄せているうちの一人。この美容師が元々勤めていた美容院から独立・開業し、それを追いかけて今の美容院に通っているのだから、余程のお気に入りだと言える。

どうして街中で会うのが嫌なのかー。それを尋ねたことがある。そのときは「いろいろあるのよ」とはぐらかされたが、どこか察するところがないわけでもない。自分の髪型を任せる美容師だからこそ、会うときはいつもきれいにし、常に良い印象を保っておきたいのだろう。

少し離れたところから、美容師さんと立ち話する奧さんを眺める。奧さんはうろたえたのも一瞬、すっかり我に返り、"キャッキャウフフ状態"で偶然の遭遇を楽しんでいる。見ていて空々しさを感じない。高過ぎるコミュニケーション能力。それを奧さんにまざまざと見せつけられた。

品定め疑惑

向こうから会釈する美容師に向け、頭を軽く下げて礼を返す。一段落したのか、奧さんがこちらにやって来て、それを合図に夫婦並んで歩き出す。やがて深いため息の奧さん。「もっとちゃんとした格好をしておきたかった」とつぶやき、どこか哀しげな雰囲気を漂わす。その言葉に、ハッとする。夫婦揃って、あまりにラフな服装。美容師はお洒落しゃれにうるさそうな美容業界の人。もしや、品定めされた!?

夫婦揃って重くなる足取り。哀しき遭遇。

(写真:『りすの独り言』トップ画像=りす撮影の素材を基にりす作成)

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りす=ハードボイルド
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