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寄り道ランチ
ー都電ぶらり散歩(1)
ハクチョウ(白鳥)が見たいー。そんな奧さんのひと言をきっかけに、わが夫婦の「都電ぶらり散歩」は始まった。俳句が趣味の奧さん。有志のサークルに所属していて、そこでのお題がハクチョウらしい。ただ、なかなかイメージが湧かず、実際にハクチョウを見れば、インスピレーションを得られるかもしれないと考えたようだ。奧さんたっての提案を無下にするわけにも行かない。重たい腰を上げる。向かうは荒川自然公園(東京都荒川区)。いざ、ハクチョウが住まう池へ。
立ち食い寿司屋
サラリーマンの休日は短い。せっかく出かけるのであれば、楽しいものにしたい。そう思い、荒川自然公園に向かう途中、夫婦揃って気になっていた立ち食い寿司屋「立喰・さくら寿司」(東京都豊島区)に寄り、早めのランチを取ることに。
「白鳥」は晩冬の季語、「白鳥帰る」は春の季語、そして、この寿司屋の店名である「さくら(桜)」は晩春の季語と、見事に季語つながりである。訪れた寿司屋は、JR池袋駅(同豊島区)につながる地下飲食街の一角にあって目立たないながらも、待ち客の列ができていて、否が応でも期待が膨らむ。
店内はカウンター内の大将を取り囲むように、ギリギリ10人入るか入らないかの狭いスペース。文字通り、すし詰め状態だ。ランチは税込み1200円のセット、同じく1000円のセットから選べる。ともににぎり9貫と巻物で個数は変わらない。タネの種類が違うのだろう。1200円のセットを注文。
客は皆、黙々と食べる。それに習い、われわれ夫婦も寿司一つひとつを集中して食べる。ひと口入れると、奧さんが目を見開いた。食べ終えた客から静かに会計を済ませ、店内を後にする。替わりに静かに入ってくる客。質実剛健な雰囲気。すべてが良い。
"池波イズム"
こうした空気に『男の作法』を上梓した池波正太郎を思い出した。寿司屋を訪れたときのマナーとして「寿司を置いたままグダグダしているのは良くない。話すことがあれば食べてから他所に行けばいい」と説いたという逸話がある。こんな"池波イズム"あふれる寿司屋に行ってみたいと思っていたが、偶然にもこの日、それが叶ったと言える。奧さんには悪いが、ハクチョウはどうでも良くなった。何なら、このまま帰っても良い。
ただ、それを口にするわけにも行かず。静かに店を後にした。(続く)
(トップ写真:連載『都電ぶらり散歩(1)』カット=りす作成)
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