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味変ルート
ー都電ぶらり散歩(2)
ランチを食べたJR池袋駅(※、東京都豊島区)から、ハクチョウ(白鳥)が住まう荒川自然公園(同荒川区)に向かうには、JR線と地下鉄を乗り継ぐルートが最適解だ。ただ奧さんが、そこにひと味足して"味変"したいと言いだした。都電荒川線(都電)を使って下町情緒に触れつつ、のんびり目的地に向かうルートで行きたいという。都電の一日乗車券(税込み400円)を買えば、乗り降り自由でお得とも。何だか楽しそうだ。そう思い、奧さんの提案に乗ることに。それが車内の無言劇につながるとは分からないものだ。
連載「都電ぶらり散歩」シリーズ:「(1)寄り道ランチ」
足したひと味
通勤や外出で頻繁に使うJR線や地下鉄。荒川自然公園に向かうには、これらを乗り継いで向かえばタイムパフォーマンスが良い。一方、奧さんの誘いに乗ると、目的地に着く時間は30分以上余計にかかる。それでも、普段とどこか違う景色が見られるワクワク感があって良い。
せっかく休日に出かけるのだから、少しでもいつもと感覚を味わいたい。そんな奧さんの気持ちが込められているのだろう。下町を縫って進む都電。ガタゴト揺られるながら眺める古めかしい街並みは、飾り気のないドキュメンタリー映画を見ているようだ。
乗り降りする人の波も面白い。スーツを着たサラリーマンやOLの姿は比較的に少ない。普段着の人が目立ち、生活の息づかいが聞こえてくるよう。都電はJR線や地下鉄に比べて揺れが大きく、乗客がこぞって高齢者を優先席に座るよう気遣う姿にも、ほっこりする。
奧さんが味変したこのルート、実はコストパフォーマンスも良い。JR線と地下鉄を乗り継いだ場合、交通費は安くても往復600円超かかる。ところが、東池袋4丁目駅までの歩きを条件に、都電の一日乗車券を買えば400円で済む。カフェに寄ろうと、ふらっと途中下車することもできる。
不毛なやり取り
都電に揺られること、およそ50分。この間、夫婦で会話が弾むはずだったが、フタを開ければ会話ゼロ。乗車したタイミングが午後の混雑にぶつかったことが大きい。人波を上手く避けて車両の最前列を分捕ったものの、奧さんはまんまと押し流されて最後列へ。そのため、会話はLINEでポチポチすることに。内容は「隣の人が臭う」「どうにか耐えるんだ」など。ハクチョウや荒川自然公園に触れることも一切なく。あまりの不毛なやり取りにせっかくのルートも形無しだ。
そんな思いの中、気付けば目的地が近い。(続く)
(トップ写真:連載『都電ぶらり散歩(2)』カット=りす作成)
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