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弾丸・信州上田行(6)

ー貴族のサロンと果実の宝石

制服を着た生徒たちが学校から帰宅している姿が目立つようになり、われわれ夫婦も弾丸ドライブの最終目的地、老舗菓子メーカーの飯島商店(長野県上田市)に向かう。この店は、長野県を代表する伝統菓子「みすゞ飴」の製造・販売元として知られる。上田城址公園(同)からクルマを10分程度走らせると、大正ロマンあふれる石造りの建物が見えてくる。それがこの店の本店。みすゞ飴が大好きな母親の顔を思い浮かべる。箱に入っていかにも高級そうなみすゞ飴をお土産に買って帰ろうと、気合いを入れた。

連載「弾丸・信州上田行」シリーズ:「(1)迷子のイヤリング」「(2)窓閉まらずも蕎麦屋へ」「(3)食欲は焦りを抑える特効薬」「(4)蕎麦屋「刀屋」の爆盛り体験」「(5)絵馬回廊と聖地巡礼

お土産選び

入口の扉を開けると、正装の"コンシェルジュ"が出迎えてくれた。店内を照らすシャンデリアの暖色系の光がやさしい。入って正面から右手に、古き良き時代を感じさせる置き時計やオルガン、格調高いイスやテーブルが並ぶ。貴族のサロンと言われても通りそうな雰囲気。「うわぁ、すごい」と思わず声を上げる奧さん。

左手に、商品がきれいに配置された陳列棚や冷蔵ショーケースがある。一つひとつ眺めて歩くうち、みすゞ飴には普段よく目にする直方体の形以外に、立方体のものがあったり、そして、オブラートで包まない「生みすゞ飴」があったりと、種類がバラエティーに富んでいることに気付いて驚く。このことを母は知っているだろうか。

「果実でできた宝石」生みすゞ飴(りす撮影)

母へのお土産は冷蔵ショーケースにあった生みすゞ飴。アンズ、ウメ、サンポウカン、ブドウ、モモ、リンゴの6種類のセット。賞味期限はおよそ1週間と案外短く、要冷蔵。そして、価格は税込み1480円とやや高めの印象もあるが、それはそれ。何と言っても、見た目が果実でできた宝石のようにきれいで美味しそう。まず、そこに心を射貫かれた。

通常のみすゞ飴とはちょっと違うところも気に入った。飯島商店によると、みすゞ飴を乾燥させず、オブラートで巻く前の状態であるらしい。そのため、本来のフレッシュな風味と食感を楽しむことができるそう。母もきっと喜んでくれるに違いない。そう期待しつつ、わが家の分、義母の分も一緒にお買い上げ。手渡す日が楽しみになってくる。

幻のカフェ

一つ残念だったことと言えば、この店にイートインスペースがなかったところだ。どこでどう間違った情報を手に入れたのか、店内にはカフェスペースがあり、そこで購入したみすゞ飴をその場でお茶を飲みつつ楽しめると、夫婦揃って勝手に思い込んでいた。アンティークな照明器具や家具に囲まれたハイソな空間で食べるみすゞ飴はさぞかし美味しかろうと期待を膨らませていたが、それらしい場所はなく。コンシェルジュに尋ねたところ、そんなスペースはないという。それを聞き、やや気落ち。ただ、こうした行き違いがいつか愉快な思い出に変わるはず。そう考え、気を取り直した。

晴れ晴れした気持ちで店を後にする。菓子一杯の包みを提げながら。
(続く)

(写真:『りすの独り言』トップ画像/みすゞ飴のマスコット=りす撮影)

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